NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●スポーツのためブレインジムと原始反射アプローチ●
嵯峨慈子

2013年から意識して取り組んでいる活動がスポーツ分野における脳トレです。最初のきっかけはブレインジムや原始反射などを学んだ初期の頃のこと、

「えー?なるほど。これは面白い!」、「現役の時に知っていたら、もっと別の可能性があったかも」、「えっ?自分の身体の中で、まだ、眠っていることがあるのね」、「スランプのときって、こんな風に脳をつかっているんだ……」と、たくさんの自分に対する新しい気づきや発見をしたのです。

実際の体験でもそうですが、理論や考え方で大きな影響を受けました。これを教えてくれた人が魅力的だったことも。アメリカの先生方でしたが、相手にストレスやプレッシャーをかけずに指導するのに、学んでいる人が、自分の足で進めるように声をかけ、伴走しているのを見たからです。それもとても「わかりやすい方法」で。

「人の才能を伸ばすのに、こんな方法があるのね、知らなかった! 私も、もっと、もっと勉強してみたいし、できるなら、こんな人になりたい!」と、理想をもったことを覚えています。

さて、私は小学生から大学まで、ずっと競技スポーツをしていました。3年以上もの間、0,1秒もベスト記録が更新しない、というスランプも経験したことがあります。今、当時を振り返ってみると、ものの見方、脳の使い方そのものが、ずいぶんと限定されていたことに気付きます。そして、ここ10年、学び続けている中で「自分がまだまだ開発されている」感覚がわかり、スポーツや子育て、仕事をしていく中でも、自分の能力に幅がでてきているのが分かります。

ということで、スポーツをしている方にも、私と同じように「脳と動きのつながり」について学びたい人がいるのでは?と思い、スポーツ向けのブレインジム&原始反射ワークのプログラムを始めたのです。ブレインジムとは?については、IMSIのHPに、活動については、講師のブログSaga-logにて掲載していますので、ご興味のある方は、どうぞご覧下さいね。

ここでは、IMSITIMES初登場の原始反射について投稿します。

 

原始反射とは?

原始反射は人が成長していくプロセスの中で現れる反射的な身体の動きで、主に胎児期から新生児期にみられます。胎児や新生児では、自分の意志によって身体を動かせるほど、大脳が発達していません。

その代り、特に脳幹と呼ばれる原始的な部位で身体を自動的に動かしながら、自然に成長、発達をする力をもっています。原始反射は手や足の動き、首の動き、全身を含む動きなど、いくつかの種類があります。

各反射は、反射の動きがみられる(出現)→頻繁にこの動きがみられる(発達)→この動きがみられなくなる(統合)というプロセスを経過していきます。

ひとつの原始反射が、また別の原始反射をサポートするように出現し、統合し、最終的には、反射的な動きの世界から、人間が自分の意志で動けるように脳を徐々に発達させていきます。

これらの原始反射は恐怖に対する反応、バランス感覚や空間認知能力、姿勢維持、身体の各部位を連携して動かすこと、上半身と下半身の協調や、左右の協調など、多くの発達の基礎となるだけでなく、より人間らしい脳の発達として大脳新皮質や辺縁系への発達にも影響しています。

 

発達の土台となる原始反射の統合

赤ちゃんの時の運動不足や環境要因など、様々な理由が言われていますが、なんらかの原因によって発達プロセスが不十分のまま身体が成長し、原始反射の統合が行われず、発達のプロセスに「ギャップ」が生じてしまうことがあります。

少しであれば、気づかなかったり、気にならかったりする場合もありますが、発達の土台が「グラグラ」することで、その後の学習や運動能力に困難を感じることがあります。

原始反射が統合されていないときに、みられる例として「姿勢よく座り続けることができない」、「過度に怖がりである」、「勉強と運動が苦手」、「感情のコントロールが苦手」などがあります。

心身を含めた行動面で様々な反応が、無意識的にでるため、本人としては、自分でコントロールできないような感覚をもったり、周囲や親、指導者などからは「なんで、こうなの?」と理解されずに、コミュニケーションで問題を抱えたりすることがあります。

 

代表的な原始反射の例

モロー反射 Moro Reflex

赤ちゃん誕生の最初の動きがモロー反射としてよく表現されます。両手両脚を広げ、息を吸い込むようなポーズをして、その後、身体の中心に向かって両手足を縮めるように動きます。モロー反射は突然の出来事や大きな音、光、頭部の位置変化などが刺激となって、引き起こされます。ストレスへの防御反応として、副腎疲労の原因になったり、反射を持ち続けていると、以下のようなことが感じられたり、観察されたりします。

  • 大きな音、光などの刺激に過敏に反応する
  • 衝動的な行動をする、もしくは行動できなくなる
  • 落ち着きがない、動き回る、ADHD
  • 新しい環境への適応するのが難しい
  • 過度の不安・心配が強い
  • 集中力の持続が難しい
  • 感情のコントロールが難しい
  • 対人関係でコミュニケーションの問題を抱えやすい
  • 乗り物に酔いやすい
  • 運動をしている時のコーディネーションやバランス感覚が得られにくい
  • 視野の問題、一つに集中した時に、視界の端にある別の物にも気を奪われやすくなり、集中力の維持が難しくなる
  • 免疫能力が下がりやすく疲れやすい
  • 自己評価が低くなりやすい

※ スポーツ選手の場合ですと、緊張するシーンで呼吸をとめやすかったり、視野に影響がでたりします。パフォーマンス結果に波がでたり、キレやすい、もしくは、リラックスをするのが困難になったりします。

把握反射 Palmer Reflex

赤ちゃんの手のひらを触れると、手を握るように指が曲がります。この原始反射を持ち続けていると、鉛筆を握ることや文字を書くこと、手を使う細かい動作に苦手意識を持つかもしれません。この反射が統合されていないと下記のようなことが感じられたり、観察されたりすることがあります。

  • 微細運動、手先が器用でない
  • 鉛筆の握りが強い、ペンや道具の扱いが不器用である
  • 文字を書くスピードが遅い、ストレスを感じる
  • 手だけを独立させて使うことが難しい

※ スポーツの場合、ボールを掴む、ラケットやクラブを握るなど、道具を扱う種目で、より繊細な動きやコントロール能力に影響を及ぼすことがあります。手だけでなく、足底にもこの反射があり、地面をとらえることに影響しています。

 

スパイナルガラント反射 Galant Reflex

赤ちゃんはこの動きを使って産道をスムーズにおりてきます。赤ちゃんの背骨の脇をなでると、刺激があった側の腰が動きます。ガラント反射を保持していると、下記のようなことが感じられたり、観察されたりします。

  • 脊柱側弯、骨盤の使い方に左右差がある
  • 腰痛になりやすい、緊張がある
  • 椅子に長くすわっていることが苦手でモゾモゾ動いたりする
  • 上半身と下半身の協調が悪い
  • 集中力が続きにくい
  • 「おもらし」をする時期が長かった

※ 上半身と下半身のつながりや連携に影響を及ぼします。また、左右均等にトレーニングをしているつもりでも、筋肉の付き方に左右差がでて「腰痛」を抱えやすくなることがあります。

緊張性迷路反射 Tonic Labyrinthine Reflex(TLR)

この反射は頭の動きに関連して身体が反応します。前庭系などバランス感覚、空間認知能力に影響しています。真っ直ぐ立つ、歩くための準備を行います。この反射を持ち続けていると以下のようなことが感じられたり、観察されたりします。

  • 猫背、アタマをまっすぐ立てることができず、カラダの中心軸が安定しない
  • バランス感覚が悪く、乗り物酔いしやすい
  • 階段を降りるのが苦手、一段抜かしが難しい、降りるときのリズムがつかめない
  • 鉄棒の前まわりやマット運動の前転ができない
  • 空間認知、奥行きの感覚、速度感覚が鈍くなる
  • 黒板の字がみえにくい、文字が飛び出してみえることがある
  • ボールを使った運動やスポーツ全般、体育が苦手、全身の協調が低い
  • 物事を順序立てたり、まとめて考えたりすることが苦手である

※ 空間やバランスに関係する発達の土台となるため、スポーツにはとても関係が深い原始反射の一つです。ボールがキャッチにおける空間認知能力の土台です。

 

非対称性緊張性頸反射 Asymmetrical Tonic Neck Reflex(ATNR)

赤ちゃんの頭を左右の一方に向けると、同じ側の腕と足が伸び、反対側の腕と足が曲がる反射です。この反射は目と手の協調の発達を支えます。この反射を持ち続けていると、例えば自転車を運転していて、右を向いた瞬間に反対の左腕が曲がることで、バランスに影響し、安定せず、グラグラとします。また、手だけでなく、下半身も連動して動くため、球技や体操、あらゆる運動やスポーツに深く影響を及ぼします。また、以下のようなことを感じられたり、観察されたりします。

  • 手と目の協調性が低い
  • 本や教科書を読むとき、文字の列を読み違えたり、同じ列を2回以上読んだりする
  • あらゆる球技を難しいと感じる
  • 運動や体育、スポーツをするのが嫌い、苦手
  • 正中線をこえる動きが困難、歩く時に同じ側の手と足がでてしまう
  • 利き目、利き手が一定しにくい
  • 視野の問題、すぐに目が疲れる

※ 運動において、左右の使い方に問題がでたり、片方だけを使って身体を動かしがちになったりする、左右のバランスが悪くなります。反射を持ち続けているときには視野への影響だけでなく、首の痛み、片方だけ強化されたり、ケガをしやすくなったりします。

 

対称性緊張性頸反射 Symmetrical Tonic Neck Reflex(STNR)

STNRは四つんばいの姿勢から頭が動くと腕や下半身が連動して動きます。この反射を保持していると、座る姿勢、立つ姿勢で猫背になり、正しい姿勢を維持するのが困難となります。以下のようなことを感じたり、観察されたりします。

  • 赤ちゃんのとき、はいはいをあまりしなかった
  • 前かがみ姿勢で机にうつぶせたり、頭を支えたりする
  • 黒板をみて、ノートに書き写すのが困難
  • 猫背姿勢、注意力の散漫
  • 背筋を伸ばし続けること、背中の筋緊張が弱い

※ 椅子の脚の自分の足をひっかけて座ったり、正しい姿勢で座り続けたりすることが難しくなります。運動では首、背中そして下半身を連携させて使う動き、発達全般において重要です。首、背中、腰などの筋力やコアの強さ、動かしやすさにも影響します。

恐怖麻痺反射 Fear Paralysis Reflex(FPR)

原始反射の前の段階のストレスに対応している反射と考えられています。以下のようなことが感じられたり、観察されたりします。

  • 心配や不安が多く、心的にも肉体的にも疲労しやすい
  • 肌、音、視覚的な変化などへの感覚過敏
  • ストレスに弱い
  • 想定外のことがおきると混乱、パニック、柔軟に対応することが難しい
  • 息をとめやすい、緊張で身体が固くなりやすい
  • 過度に失敗を恐れることが多い
  • 自己信頼感、自己肯定感が低い、簡単に「自分はダメ!」と考えがちになる
  • 人や対象物と目をあわせないこと、視線が合わないことが多い

※ 自分では緊張しないようにと意識しているのに、無意識のレベルで練習や大会で恐怖や緊張で身体が固まる、息をとめやすくなります。

スポーツをしている人へ、原始反射を伝えるにあたって

原始反射は新生児期の身体の動きです。ですので「このころの発達が足りなかった」と言われても、それは「どうしようもないこと」と思うかもしれませんし、統合されたバランスのいい選手をみると、羨ましく思うかもしれません。実は、私はほとんどの原始反射が残っていました。なるほど、選手を続けて、結果がでてきても、あるレベルまで行くと、壁にぶつかるはずです。

選手の時は、「なぜ、できないのか?」「なぜ、こう反応するのか?」など思いながらも、意識的に相当の努力で改善を試みてきました。例えばフォームの獲得、新しいスキルの獲得など。でも、無意識的な反応に、反復練習や努力という方法では、なかなかたどりつかなかったのと、努力を重ねて、結果がでなければ、自信をなくしていくこともあります。

原始反射、ブレインジムについて学び、今は、動きの「なぜ」?を理解することができ、統合していくための手法も、それを深めるための、心の持ち方も含めて、私の選択肢の中にあります。

私がスポーツの分野で原始反射や脳と身体のつながりについて、伝え始めた最も大きな理由は、
「きっと、私と同じような体験、苦労をしている人もいるだろう」 「原始反射を丁寧にみていくことで、統合されていない分だけ、自分の成長の『のびしろ』」となる」

日々練習をしている選手は、競技歴が長くなればなるほど、練習を重ねれば重ねるほど、また、限界まで取り組めば取り組むほど、「もう、どこを伸ばすの!」という感覚になることがあります。特に原始反射を保持している人は、そういう傾向になります。

そんなときに、「のびしろ」が、どこにあるか分かると、練習のモチベーションがあがるだけでなく、脳のストレスが、ぐっと減ります。どこから可能性を広げていくか、という新しい選択肢を選手自身の中に持つことができますし、原始反射にアプローチするエクササイズは、選手にとって肉体的負荷が軽い、という特徴があります。

原始反射のトレーニングは人間としての心と身体、そして動きの「発達の土台づくり」として行います。すぐに目にみえた結果に結びつかないこともあるでしょう。それでも、理由が分らなかった動きに支配されていた、自分よりも、はるかに自分自身を自由にコントロールしやすくなります。

思い通りに身体を動かすこと、原始的な脳と身体のつながりだけでなく、統合され、意志で身体を使っていくこと。
「あれっ?こんな感覚初めて、なんか、自分の中で使えそう!」
こんな学びを必要としている方へ、ユニークな選択肢を提供したいのです。

※ IMSI内では、「不器用と感じている」大人のための原始反射ワークもおこなっていきます。今の自分自身を大切にしていく、という目的のもと、明るい気持ちで前にすすむための時間をコーディネートしたいと思っています。

 
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