NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●震えるほど感動する施術をしたことがありますか?●
宮武 直子

施術をして、震えるほど感動したことがありますか?

私はあります。2回。しかも、2回とも、ボランティアで。
私はアロマエステサロンを開業して今年で10年になります。

その間、多くのお客様を施術させていただき、毎回「なんていいお仕事なんだろう!」と幸せを感じています。ですが、これまででもっとも感動した施術は2回とも、タッチセラピー・ボランティアでの経験です。

 

ストレスの巣窟だった避難所

陸地に打ち上げられたフェリー船(宮城県・気仙沼大島)

1つ目は、東日本大震災の被災地において。

それは被災から1カ月ほどのことでした。現地はまだ避難所生活で、水も電気も通っていない状態。一人0.5畳ほどしかないスペースでの共同生活で、住民のストレスもmaxに達していました。

そんな中、ある避難所の寝たきり老人の場所に支援物資の無圧布団(床ずれを防ぐためのマット)を届けに行ったのですが、扉を開けた瞬間から部屋の中はストレスであふれかえり、「またあの人のとこか!」聞こえてくる会話に耳を傾けると、どうやらその避難所は大半の方が高齢者らしい。

自分たちも足が痛かったり持病の薬がなかったりでつらい思いをしているのに、お医者さんなどの支援は寝たきりに人のところだけ行って自分たちのところにはまったくこない。それだけでも腹が立つのに、たまたま同じ避難所になっただけの縁もゆかりもない寝たきり老人の面倒をみろ、と言われる。自分たちだってつらいのに、なんであの人ばっかり。

そう思うのも当然ですよね。つい先日まで普通に暮らしていたのに、いきなり全財産を奪われ、着の身着のまま、食べるものも寝る場所もろくになく、苦痛を我慢している高齢者。そんな生活が1カ月も続くと他人を思いやる気持ちがなくなるもの当然です。

「たしかにそれは、ごもっとも!」と私も思いました。
そこで、避難所の責任者に尋ねました。
「みなさんのためのマッサージをさせていただいてもいいですか?」
「んあぁ? やるなら勝手にやって!」

当時は食事と生活環境を整えるのに精一杯の状態で、責任者もてんてこ舞いでした。そんな時にわけのわからないマッサージなんて申し出を受け、なんだか知らないけどとにかく邪魔だけはしないで、といいたげな責任者のまなざしを気にせず「は~い、じゃ、明日、また来ますね」と帰って行きました。

 

避難所で施術をしてみたら…

以下の写真は仮設団地でのものです

そして次の日。
私は密かに持ってきていたグレープフルーツの精油とティッシュをもってストレスの巣窟に乗り込みました。

「こんにちはー!」
すると部屋中の全員がにらみ返します。
「またあの人のところへ来たのか!」
そこですかさず続けます。
「今日はみなさんにマッサージをさせていただきにきました! みなさんが普段、寝たきりの方の面倒をよく見てくださっていると聞いたので、そのお礼をと思いまして……」

もちろん、そんな話は出まかせです。でも、きっと、その場のみなさんはそう言ってもらいたいと思っているだろう、と思って言ってみました。すると、にらみ返していた全員の顔が「???」になりました。

私が予想外の回答をしたのでびっくりしたのかなー?と思ったら、それだけではなかったようです。どうやらお店などで「知らない人にマッサージしてもらう」という文化がその地にはなかったのです。

「マッサージ、どうですかー?」と言ってもみんな不審がって寄ってきません。

そんな中、一人のおじいさんがやってきました。
「なに、マッサージしてくれるの? やって、やって!」

その方は過去に東京に住んでいたことがあり、その頃は毎週のように通っていたそうで、マッサージの気持ちよさを知っていたとのこと。屋中の不審がる視線に見つめられながら、15分ほど全身のもみほぐしをさせていただきました。

その施術が終わると。「いや~、気持ちいい! 目がすごくよく見えるようになった!! 身体も軽い!! いや~、ありがとう、ありがとう!!」
施術前とは明らかに違う目の輝きです。施術した私自身、びっくりするほどの変わりようでした。その様子に、見ていた周りの方々もびっくり。

勇気ある人が一人、また一人と挑戦しては「いや~、気持ちいい!」「身体が楽になった!!」と次々と絶賛の言葉を口にして満面の笑みで帰っていきます。そうなると、あっという間に部屋中の人が「私も!」「次は私!」と順番待ちに。その日は朝から日が暮れるまで、食事もせず、トイレにもいかず、一日中施術をしていました。

 

部屋中の空気が変わった!

床での施術でも気分は極楽

そんな中で私が感動したことは――部屋中の空気が変わったのです。

入ってきた時は、目に見えるほどのおどろおどろしい空気に包まれ、聞こえてくるのは怒りの声と人の悪口ばかり。誰もがピリピリしていて、本当に恐ろしい空気でした。それが施術が終わった人から次々と笑顔になり、たわいもない雑談が始まり、笑い声が生まれ。やがて、悪口の対象とされていた寝たきりのおじいさんの面倒をみんなが率先してみるようになり、おじいさんの周りで談笑する姿がありました。

「施術の力ってすごいなー」と私が思っていた時に、部屋の中心的存在でいつも大きな声で不満を口にしていた方の番が来ました。施術をしながらお話しをしていると、その方がふと漏らしました。

「あの方(寝たきりの方)は、身体こそ動かないけれど、記憶力は本当にすごくて頭がいいのよー。」
「こんな時だからね。できる人ができることをして、お互いに助け合わなきゃね。」

感動しました。
たった15分ほどの簡単な施術で、人の心をここまで変えられるのか、と。

 

究極の環境では人間が本質的に求めているものが見える

傾聴もしながら、心身をほぐす

これは施術技術の効果に加え、「あなたを大事に思っていますよ」という気持ちが伝わった結果だと思います。私は授業でも教えていますが「施術は心が80%、身体が10%、技は最後の10%」だと考えています。正確な知識と優れた技術はたしかに必要です。でも、技術だけでは絶対にここまで変えることはできません。相手の心を読み、それにあわせた動きをしてあげることで生まれる結果ではないでしょうか。

通常の環境ではここまで追い詰められることはあまりないので、その必要性はそれほど感じられないかもしれません。でも、人間が究極の環境で求めているものは人間が本質的に求めているものだと思うのです。それが、心に寄り添いその人に合った施術をすること。そんな施術ができる施術者であって本当によかった、と涙が出そうになりました。

 

死の直前のアロマトリートメント

個室病棟の部屋の様子

もう1つの体験は、病院ボランティアでのこと。

病院ボランティアにもいろんな種類がありますが、私は末期ガン患者専用の緩和ケア病棟で患者さんにアロマトリートメントをさせていただいています。

その中でご家族からの要望があり、ある女性の施術にお伺いさせていただきました。

前回お伺いした時より弱々しくなられたなー、とは感じたのですが、にっこりされていたし、とても楽しみにしているとお伺いしていたし、部位や時間などは相談しながら施術させていただいていました。

途中、呼吸が苦しそうだったので、「お顔の施術(フェイシャル)はやめておきますか?」とお尋ねしたのですが、ご本人がやってほしいとのことだったので短めに、簡単に施術をさせていただきました。それでその日は帰ったのですが。

 

お客様が翌日に亡くなった……!

最期のひとときに安らぎを与えられれば

翌日、その方が亡くなったと聞かされました。驚きました。昨日まで、笑みを口にし、自分で意思表示をしておられたのに……!

それと同時に不安がよぎりました。ご家族の要望に基づいて病院の許可も得ているとはいえ、「アロママッサージの負担が大きくて亡くなった」と責められるんじゃないか、と。

内心びくびくしていましたが、ご家族の反応は違いました。
「母はとても幸せでした。死の直前にあんなに気持ちいい思いができて、すごく幸せそうに逝きました。本当にどうもありがとうございました。」

涙があふれました。

私が施術をすることで、何十年という生涯の最期を幸せな気持ちで過ごすことができたのか。ご家族はお母さまにそういう時間をつくってあげられたことを喜んでくれているのか。きっとお母さまもそんな時間をつくってくれたご家族にとても感謝をされているに違いない。

施術をさせていただいたお母さまはもちろん、ご家族にも幸せを感じていただけるお手伝いができたことを、私自身とても幸せに感じました。

 

タッチセラピー・ボランティアは施術の力をあらためて認識する機会

ボランティアセラピーからは特別な経験を得られる

もちろん、日々の施術でも本当に毎日「この仕事を選んでよかった!」と思うほどの幸福感を感じ、お客様に喜んでいただけるこの仕事はなんて幸せな仕事なんだろう、と思っています。

しかし、やはり特別な環境にある方へ施術をさせていただくことは時に思いもよらぬ反応があり、あらためて施術のもつ力を認識する機会となっています。

それは「無償のボランティアだから」というわけではないかもしれませんが、通常のお客様として接するのはなかなか難しい方々に対し「ボランティア」だからこそ接することができている、というのは紛れもない事実だと思うのです。

 

相手もHAPPY、自分も楽しいボランティア

仮設団地に向かうメンバー

ここで少し、私が代表を務める東日本大震災被災地ボランティア団体についてご紹介いたしましょう。

私は現在、日本いきいきライフ協力機構(通称:JILCA)というボランティア団体の代表を務めています。JILCAにはマッサージ部隊を中心に、カフェ部隊、ランチ部隊、ガテン部隊などがあります。

 

住民と会話するカフェ部隊は「ボランティア活動の肝」ともいえる

カフェ部隊は住民のみなさんとたわいもないお話をしたり、一緒に遊んだり、という誰でもできる活動をする部隊ですが、実はすべての活動の真髄をなす、とても重要な部隊です。

「傾聴」により相手に心を開かせて楽になってもらうのですが、「人生を楽しく乗り切るコツ」や「結婚相手とうまくやるコツ」など、苦難を乗り越えた80代・90代の人々の言葉には勉強になることがたくさん満ち溢れています。

 

現在は太巻きづくりが大人気

ランチ部隊は住民のみなさんと一緒にお料理をする部隊。JILCAではメンバーと住民が「支援者と被支援者」ではなく、「一対一の対等な人間関係」であると考えているので、炊き出しのような一方的に与える形式ではなく「一緒につくる」あわよくば「教えてもらう」というスタンスで一緒に楽しい時間を過ごしています。

 

ガテン二―ズは今でも続く

ガテン部隊は、被災から4年ちかく経ってもいまだに震災直後の状態で放置されている場所などで、住民が前を向いて歩けるように家屋の整理や整地作業などを行います。

「キレイにする」ことにもちろん喜びも感じるのですが、作業後に明るくなった依頼者さんの笑顔を見ると、なんとも言えない幸せを感じます。

 

お互いに技術協力するマッサージ部隊

そして、「JILCAのお家芸」と言われているのがマッサージ部隊です。
仮設住宅の住民などに対して、床で、着衣での施術を提供します。

JILCAのマッサージ部隊には、あんま師、理学療法士などの国家資格所有者から、アロマセラピスト、整体師などの民間資格者、そして、IMSIのタッチセラピー・ボランティアコースで学んだ一般の方まで、幅広いメンバーが施術を行います。

多種多様な施術者が集まると、その施術ごとの考え方の違いから「自分の施術が一番。他の技術は間違っている」という意見が出ることが多いですが、JILCAでは考え方が異なる相手も尊重することを徹底的に共通認識としているので、そのようなことはありません。

むしろ、お互いの技術を相互に無料で教え合います。
私もこれまでに国家資格者やタイ古式マッサージ師などにいろんな技を教えてもらいました。
施術する以外にこういう技の広がりを学べるのも、ボランティアを機に集まった人達ならではのことですね。

 

お礼を言われると、心がほっこりあたたかくなる

JILCAでは「人が、前向きに、いきいきと暮らせる環境づくりのお手伝い」をコンセプトに掲げています。

ここでいう「人」とは、支援される側の人はもちろんですが、支援する側の人も含みます。
支援する人もされる人も、ともにいきいきと楽しめる活動。
それが、長続きする秘訣ではないかと思っています。

JILCAではこれまでに延べ約1500名を現地に送り込み、登録メンバー数も850名を超えています。

 

継続的に活動するために団体をつくった

阪神淡路大震災当時の自宅裏

そんな団体の代表、というと、さぞかしボランティア慣れした崇高な人、と思われがちですが、とんでもありません。

私も東日本大震災発生時、「旅行に行こうか、ボランティアをしようか」迷った上、「やったことがないからボランティアをやってみよう」と思ったのが正直な動機です。2011年以前はボランティアなんてやったこともありません。

ただ私自身が阪神淡路大震災の被災者であり、その時の経験から「ボランティアをやるなら、仮設団地がなくなるまで、長期的にやろう」とは決めていました。というのも、現地の人、特に高齢者などにとっては、被災直後も大変だけれど、時間がたてばたつほど精神的苦痛が大きくなることを目の当たりにしていたからでした。

若い世代がどんどん普通の日常に戻っていく中、いつまでも仮設から出るめどもたたず、やがてたらい回しにされる高齢者。気持ち的にどんどんつらくなるのに、当初大量に来ていたボランティアは姿もなく、まるで日本中から取り残されたような気分になる。そんな不安と悲しみが入り混じったつらい状況に、文字通り人のあたたかみを届けるタッチセラピーは絶対有効に違いない、と。

そして、長期的にやるためには団体を作らざるを得ない、という理由で団体を設立しました。

 

動機なんてなんでもいい。行動する人が素敵

それぞれに楽しみながら、自分にできることをする

よく、
「私なんかがボランティアをやってもいいんでしょうか」
「こんな中途半端な気持ちで始めては申し訳ない気がする」
という方がおられます。

私は動機なんてなんでもいい、と思っています。私だって、旅行かボランティアか迷って、たまたまボランティアを選んでみただけですから。

崇高な動機ももちろん素敵ですが、それ以上に大切なのはまずは行動してみて、そこで自分が何を感じるか、だと思います。
そこで感じたものを糧に、できればボランティア活動を続けてもらえれば、それでよいのではないでしょうか。

 

セラピストなら、絶対にタッチセラピー・ボランティアをした方がいい

仮設からいつまでもバスを見送る住民

不純な動機で(?)始めたボランティアではありますが、3年以上、何百人という方にボランティアで施術させていただいて私が思うのは、「セラピストなら、絶対にタッチセラピー・ボランティアをした方がいい」。

それは、「セラピストは心優しいから」なんて理由ではありません。ボランティアでしか出会えない人がいて、ボランティアでしか体験できない経験がそこにはあるのです。

セラピストとしての成長は、いろんな症例に出会うことではないでしょうか。もちろん日常生活の中にもいろんな生活の、いろんな境遇の方がおられますが、ボランティアをするとその幅が一気に広がるのです。七つの海を渡り歩いた屈強な漁師。隣の家の人に遠慮して家の中で声も出せない女性。戦争体験を克明に語る90歳を超える男性……。

普段の施術では絶対に出会えない精神状態・肉体状況の方々への施術を通じて得られるものは、体験した人にしか分からない世界なのです。そしてその経験は、普段の日常に戻ってからの施術にも、確実によい影響を与えるのです。

貴重な体験ができて、自分自身得るものが大きくて、相手にも喜ばれる活動。そんな時間を一緒に過ごしてみませんか?

JILCAでは随時施術者を募集していますし、IMSIではそれに向けた講座も開催しています。ご興味のある方は、ぜひどうぞ!

※文中に「マッサージ」という言葉を使用しています。法律上の区別は十分理解していますが、まずは施術を受ける方に意味が通じることを第一に考え、ボランティア活動中に「マッサージ」という言葉を使用することがあります。
※被災直後・病院内での写真撮影は非常に困難なため、一部写真は最近のものを使わせていただいております。

 
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