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●骨関節炎への対処●
フィリパー・バック/ジャネッタ・ベンスゥイラー 筆

フィリパー・バック
ジャネッタ・ベンスゥイラー

骨関節炎は関節軟骨の変性による疾患で、変形性関節症とも呼ばれる。軟骨変性は、原因不明の要因による一時的な疾患かもしれない。又は一般的には、肥満、怪我、副甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、通風、パジェット病(※)などの二次的な疾患としても起こる。現在、治療法は限られており、治療薬はない。そのため、医学的な治療もアロマセラピートリートメントも、痛みを緩和する事、患者のQOL(Quality Of Life 生活の質)を向上させる事、可動域を広げ患者の自主性を高める事に焦点が当てられている。

 

参考資料1 骨関節炎の病理学

  • 欧米では約10%が罹患。
  • 慢性障害の原因となる
  • 年齢と共にリスクが高まる
  • 膠原線維の異常、発達の変化、関節の怪我がある場合 はどの年齢でも発症するリスクがある
  • 60歳代、70歳代で典型的な症状に気づきやすい

※ 変形性骨炎。40歳以降に発症し、頭蓋骨、骨盤、大腿骨など1~数箇所に見られる進行性の骨炎。

 

病態生理学

滑膜関節は最も多く見られる可動関節である。正常な状態においては、滑らかに動き、摩擦は少ない。骨の両端は、関節軟骨と呼ばれる特別な結合組織に覆われ、骨と骨の間には隙間があり、その広さは関節軟骨の厚さによって決まる。

正常な関節では、軟骨の形成と破壊のバランスが保たれている。骨関節炎においてはこのバランスが崩れ、変性が強くなり、結果骨と骨の隙間が狭くなる。骨関節炎を起こした関節は衝撃の吸収力が弱まり、圧縮性を失い、負荷によるダメージを受けやすくなる。骨の表面が何度も摩擦され、骨が象牙質化される。異常を起こした関節面の下にある骨には、小さい嚢腫が発生する。骨芽細胞活性の増進が関節表面での造骨をもたらし、骨や軟骨の破片によって炎症が起こり、それに起因して滑膜が肥厚するかもしれない。

関節リウマチでは滑膜の炎症が軟骨の変性を起こすのに対して、骨関節炎は軟骨と骨の変形が炎症反応をひき起こす。どちらも、長期に渡っては、筋肉の萎縮と関節の不動を起こす。

参考資料2 骨関節炎の症状

痛み

  • 初期には動く際に痛みを感じるが、後期には休憩時にも痛みが起こる
  • 除々に始まる痛み
  • 痛みの場所が限定されない
  • 深く、じわじわと痛む
  • 急激で絶え間ない痛み(特に股関節)
  • 受動的な動きで痛む

凝り

  • 動く事によって緩和する
  • 朝に起こる
  • 可動域の減少
  • コツコツという音が鳴る
  • 機能低下
  • 触られる事に敏感になる
  • 腫れと変形
 

アロマセラピーの選択

西洋医学的治療は、鎮痛剤、NSAIDs(エヌセイズ:非ステロイド系消炎鎮痛剤)の投与か、コルチコステロイド注射に限定される。減量指導、理学療法、外科処置などの方法と組み合わせて行われる事が多い。骨関節炎には根本的な治療法はなく、また、薬物療法には副作用もあるため、西洋医学以外の療法を求める患者も少なくない。英国の調査では患者の約1/3は、鍼、触診、ホメオパシーなどの補完療法を試している。中でもマッサージが最も人気がある。

骨関節炎の対処において、対象試験から得られているアロマセラピーのデータは充分ではないが、精油の評価とマッサージに関する調査には、説得的証拠が示されている。

精油の効能

抗炎症作用

典型的な炎症の症状がなくても、患部の滑液に炎症性サイトカインの増加が見られた。これは病気の進行に重要な役割を果たしていることが分かってきている。下記の抗炎症作用のある精油と精油成分が骨関節炎の緩和に働きかけると思われる。

  • ミルラ
  • パルマローザ
  • ヘリクリサム
  • ジャーマンカモミール
  • パチュリ
  • サンダルウッド
  • ジンジャー
  • オイゲノール
  • クルクミン
  • リナロールとリナリルアセテート
  • 1,8シネオール

痛みの緩和

一般に、痛みは、主に3つのステップによって起こる。

  1. 損傷を受けた組織から化学物質が放出され、痛みの受容器(侵害受容器)が刺激される
  2. 末梢神経と脊髄を経由して神経インパルスが脳に伝わる
  3. 痛みの感知が起こる

骨関節炎の場合、損傷を受けた軟骨や骨からヒスタミンやブラジキニンのようなポリペプチドが放出され、侵害受容器の感受性が高まり、傷みの強さと頻度が増す。

最も広く知られている痛みに関する理論は、1965年ドクター・メルザックと、ドクター・ウォールにより発表されたゲートコントロール理論である。「脊髄の後根には【ゲート】があり、脳に伝わる前に調節する事が可能である」と考えられている。

この理論に基づいて、ある精油の局所使用による鎮痛効果を説明する事が可能である。引赤作用のある精油が、皮膚の刺激や温度変化など局所の反応を引き起こし、ニューロンを刺激し、痛みを伝導するゲートを閉じる事によって痛みを緩和する。

メントールは、最も広く研究されている天然の鎮痛物質である。低濃度に希釈されれば冷感、高濃度であれば温感と刺激、引赤作用を引き起こすと言われる。最近の研究では、手首と肘に骨関節炎を持つ患者にメントール入りのCFA(Cetylated Fatty Acid)クリームを塗布した所、1週間後には痛みが43%軽減された。
しかしながら、CFAクリームのみで実験を行った場合も改善が見られたため、クリームを塗り込む行為がマッサージ効果として痛みの緩和に役立っていると思われ、メントールの効果がはっきりと解明した訳ではなかった。

オイゲノールの豊富な精油は他の鎮痛効果のある精油とは少し違った働きをする。オイゲノールは、痛みの刺激を脳に伝える神経ペプチド伝達物質P(SP)に影響を及ぼす。SPは急性の痛みよりも、骨関節炎に見られるような慢性の痛みに関与している。

オイゲノールは、抹消の感覚を麻痺させ、痛みの緩和につながるカプサイシンと同じような働きを見せてきた。効果は一時的である為、鎮痛効果を維持させるには頻繁に使用する必要がある。

局所の鎮痛作用は、局所麻酔作用としても働く。塗布した部位に感覚の麻痺を引き起こし、傷みの受容器をブロックし神経インパルスの伝導を阻止する。
下記の精油や精油成分には、鎮痛、麻酔作用があるとのデータが存在する。

  • 1,8シネオール
  • 1,8シネオール
  • βカリオフィレン
  • (-)-リナロール
  • ティモール
  • 真正ラベンダー

痛みの経験は、嗅覚によって変えられるのではという実験も行われた。ラベンダー精油とローズマリー精油と蒸留水を吸入した後の痛みの変化が測定された。痛みの刺激の量には変化はなかったが、時間が経ってから、痛みの不快感の記憶が軽減されている事が判明した。

マッサージの効果

Tiffany Fieldが行なった調査よると、マッサージ後の痛みの緩和は、いくつかのメカニズムを経て起こるとされている。

  • マッサージの圧はミエリンの多い長い神経線維によって伝達される一方で、痛みはミエリンの少ない神経線維によって伝達される。情報伝達はミエリンの多い太い線維の方が早く脳に伝わるため、マッサージの圧は痛みよりも早く脳に伝わり痛みの【ゲート】を閉じる。
  • いくつかの痛みを持つ疾患において、マッサージの後セロトニンの様な痛みを緩和する神経伝達物質の放出レベルが増大する。
  • マッサージ後は深い眠りが増える。この眠りの間は痛みの刺激を脳に伝える神経ペプチド伝達物質P(SP)の放出が減少する。

前述のFieldは、韓国で40人の骨関節炎患者グループと対照グループに対して、痛み、鬱、QOLについて、アロマセラピーを用いた比較調査を行った。

マッサージオイルはアーモンドオイル(45%)、アプリコットオイル(45%)、ホホバオイル(10%)に対してラベンダー、マジョラム、ユーカリ、ローズマリー、ペパーミント精油(割合2:1:2:1:1)を1.5%の濃度でブレンドしたものが使用された。患者グループの痛みと鬱のスコアは、対照グループと比べて著しく低下した。使用したオイルの植物学的検証もなく、調査の規模も小さいという、不自由な試験環境ではあったが、結果はアロマセラピスト達の興味を引くものであった。

Hassonらは、慢性の筋骨格系の痛みにおいて、マッサージとリラクゼーションの効果を比較する無作為化比較試験を行った。それぞれの効果の長期追跡調査も評価に含まれていた。マッサージを受けたグループは、痛み、健康の自覚、精神状態において顕著な改善が見られたが、その効果はトリートメント期間中にのみ見られた。3ヵ月後の追跡調査では著しい症状の逆行が見られた。

逆行してしまった原因はいくつか考えられるが、痛みの原因に対処しなかったことが一番大きな要因と思われる。アロマセラピートリートメントで骨関節炎に対処して、最良の結果を出そうとするならば、初期の集中トリートメントのあと、ブースターセッションも含めた長期的なトリートメントが必要かもしれない。

アルニカ浸出油の効果

アルニカのジェルを1日2回、6週間に渡って局所に塗布する事は、軽度から中程度の膝の骨関節炎にとって安全で効果的であることが実証されている。

アルニカの浸出油は、抗炎症作用のあるセスキテルペンラクトン類のヘレナリンとその関連成分を含む。ヘレナリンは、様々な炎症性のサイトカインを調整する転写要因の働きを抑制する。

ドイツコミッションE(※) は、リウマチなど関節の諸症状の抗炎症と鎮痛に、アルニカの局所使用を認めている。15%以下の濃度でキャリアオイルなど、マッサージに使用する溶剤。に使用することと支持されているが、高容量では皮膚刺激を起こす恐れがあるので注意が必要だとしている。アルニカは、傷害を受けた皮膚組織へは使用してならない。皮膚への異常が現れたら使用を停止する。長期にわたる使用は勧められない。

 

※ アメリカのFDAにあたるドイツBGA(ドイツ連邦保健庁。通常 German Commission E と呼ばれます。) のことで1978年に創設されハーブに関するドイツ医療(健康保険薬認証 =医薬品認証)への効能効果認定を論文発表を通じて行う機関であり世界的権威として認められています。

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