NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●ベトナムの自然療法●
2009年(冨野玲子)

1991年に初めてベトナムを訪れて以来、素朴で明るい人々に魅了され、その後留学も含めて十数回この国を訪れました。語学や文化だけでなく、現地でのホームステイを通して教えて頂いた事の一つに、健康に対する高い意識があります。週末の公園は朝5時頃から太極拳やバドミントンをしている人で溢れかえります。ふんだんにハーブが使われる食生活の中には陰陽理論が活用されており、家族の誰かが具合が悪くなると民間療法での手当が行われます。このベトナムでの体験をきっかけに、私は後に自然療法のセラピストへの道を歩むことになったと言っても過言ではありません。

 

ベトナムの自然療法

ベトナムは、神話の時代も含めると、5千年もの歴史がある国です。その長い歴史の中で、ベトナムは、繰り返し中国の支配を受けてきました。特にB.C111年に漢に征服されてからは千年もの支配を受け、政治、軍事、制度、学問、宗教、文化などあらゆる面で中国式を強いられてきました。現在でも旧正月や中秋節を盛大に祝うなど、生活のあらゆる面で中国の文化を感じる事ができます。

中国の影響は、伝統医学の中にも見られます。ベトナムでは漢方や鍼灸治療が普及しています。ハノイやホーチミン市には「漢方薬街」と言われる地区があり、数々の漢方薬が所狭しと並べられています。中国から輸入される薬も多くありますが、ベトナム独自の薬草もあり、種類の豊富さは本場中国を凌ぐそうです。

Cao Gio(カオヨー)

ベトナム語で「Cao」は「剃る」、「Gio」は「風」と意味で、中医学で言うところの「風邪(ふうじゃ)」を「剃り取る」という療法です。「青風油」というメントール、サリチル酸メチルなどの入った油を背中に塗り、スプーンや金属製のヘラを使って脊柱の両脇に2本、そこから肋骨に沿って斜め下へ線を描くように引っ掻いていきます。みるみるうちに赤みが出てきて、とても痛々しく見えるのですが、実際は見た目ほど痛くはありません。赤みの度合いが強いほど体内に侵入した「風邪」が強いとされます。

Giac Hoi(ヤッホイ)

「ヤッホイ(Giac Hoi)」とは、ガラスカップの中を火で熱して真空にし、それを身体に当てて吸着する吸玉療法です。吸玉療法はアジアに限らず世界的に行われていますが、ベトナムでは一般家庭に吸玉セットが常備されている程普及しています。夕暮れ時には、自転車でカンカンと鐘を鳴らしながら「ヤッホイ師」がやってきて、路上でも何処でも吸玉をしている風景を目にすることが出来ます。重篤な病の際には、額にまで吸玉をしてしまうので驚きです。

このように民間療法が深く根付いている背景には、ベトナムの医療の問題点があります。ベトナム人の平均月収は100万~200万ドン(約5700円~11400円)と言われ、農村部は更に低いとされています。健康保険制度はありますが、国民の多くは未加入者という状態です。経済的理由で医療が受けられない人が多く、重症化してやっと運び込まれた時には手遅れという場合が多いそうです。ベトナムの乳児死亡率は1000人あたり16人、5歳以下の死亡率は1000人あがり19人で、いずれも日本の約5倍です(UN dataより、2005年の資料)

ベトナム伝統医療施設訪問

近年、ベトナムには海外の援助などにより近代的な病院も増えてきました。また、伝統医学と現代医学を融合させた医療施設も見られます。

国立伝統医学病院 

Natinal Hospital of Traditional Medicine

国立伝統医学病院の看板

内科、外科、老人医療科、小児科、婦人科、救急医療科、鍼灸養生科を擁する420床の病院で、漢方薬局も併設しています。

ここで働く全ての医師は中医学を学び、中医学と現在医学を融合させた統合医療を行っています。この病院には毎年300~400名の外国人研修生が訪れるそうです。

農村地帯にある治療院に医療スタッフを派遣して伝統医学の技術向上に努めるなどの草の根活動も行っています。

 

国立鍼灸病院 National Hospital of Acupuncture

鍼灸を中心とした伝統医療を行っている400床の病院です。広大な敷地の中には池や広場などがあり、入院患者やリハビリ中の方がウォーキングをしたり、くつろいで歓談したりする姿が見られました。ここでは、脳疾患、感覚器の異常、疼痛、筋骨格系の疾患、トラウマ、依存症など様々な疾患を対象とした鍼灸治療が行われています。鍼麻酔による処置も行われています。

ベトナム発祥のセラピー「ディエンチャン(Dien Chan)」

ソレンセン式フェイシャルリフレクソロジーの創始者ロネ ソレンセンが、世界各国の自然療法を研究した結果、本当に効果の高い療法としてベトナムの「ディエンチャン(Dien Chan)」を応用していると知り、以前から大変興味を持っていました。この度ディエンチャンの創始者ブイ クォック チャウ氏を訪問することが出来ました。

ベトナム南部出身のチャウ氏は現在ホーチミン市在住。医学博士、鍼灸師であるチャウ氏は、病院勤務の傍ら、副作用がなく、即効性があり、家庭で誰もが行えるオリジナルセラピーを追求し続けていたそうです。

1970年に「陰陽気功と呼吸法」という独自の健康法を開発。1979年に顔に全身へ働きかける反射区があることを発見し、1980年に「Dien Chan(Face Diagnosis & Cybernetic Therapy)」を創始。以後数々の反射区チャートやグッズを開発し、ディエンチャンの普及に努めてきました。

ディエンチャンの施設風景

ディエンチャンのスクールの様子

ディエンチャンでは中医学の顔の経穴とは違う500種類以上の顔の治療点、顔だけでなくボディのリフレクソロジーチャートを使います。症状を見てすぐに治療法を判断せず、クライアントと「波長の合う」方法を、触れながら見出していく事を大切にしています。

チャウ氏は、仏教や儒教の思想にも造詣が深い人物で、独自の世界観の持ち主。そのためディエンチャンの理論は大変奥深いものなのです。施術は、金属の棒やローラー、柔軟性のあるハンマーなどの道具と、棒灸と氷の温冷刺激を使って皮膚に刺激を与えて臓器のバランスを整えていきます。ツボ、マッサージ、リフレクソロジーの要素が組み合わさったオリジナルのメソッドです。

チャウ氏は「ディエンチャンを普及させる事によって、多くの人々を病や苦しみから救いたい」と熱心に語ってくれました。ベトナム八丁のセラピーとして、これからも注目していきたいと思います。

 

終わりに

ベトナムを訪れる多くの日本人が「懐かしい!」という言葉を口にします。お箸を使ってご飯を食べるところ、手先が器用で丁寧に仕事をするところなど、ベトナム人と日本人には沢山の共通点があるのです。古き良き時代の日本と何処となく似ているベトナムの家庭には、温かみが溢れています。この国の民間療法には、伝統を忘れつつある私たち日本人が学ぶべき事が沢山あるのではないかと思います。

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