NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●英国病院における臨床アロママッサージ研修ツアー報告●
2016.06/02~2016.06/08
鈴木 希

はじめに

NHSロイヤルフリーホスピタル

2016年6月2日から7日間の日程で、ロンドンにあるNHSロイヤルフリーホスピタルでアロママッサージ研修ツアーが催行されました。ツアー参加者は30名、臨床の現場で補完療法として行われているアロママッサージを学ぶため、全国からセラピストや医療従事者、介護福祉士、鍼灸マッサージ師等が集い、過去に例のないほどの大きな研修ツアーとなりました。今回私は、サポートをさせて頂く立場でツアーに同行しました。とても充実した研修の内容を報告します。

 

院内の様子

キース氏と記念撮影

NHSロイヤルフリーホスピタルは、1,000床ほどの規模を持つイギリスでも最大級の国営の病院です。研修の目的は病院で補完療法として行われているアロママッサージを実際の目で確かめ、その仕組みや精神を学び、日本での活動に活かすことにありました。ツアー参加者の気持ちは初日から大きなエネルギーとなって伝わってくるものがあり、私は度々今回のツアーはきっと素晴らしいものになると感じていました。

 

ロイヤルフリーホスピタル研修内容

キース氏による実技デモ

1日目:クレア・マクスウェル・ハドソン先生よる講演
   「マッサージの歴史と世界のマッサージについて」
   :キース・ハント氏による講義
   「病院内で行われるマッサージについて、
彼の経験をもとにしたマナーや精神、遵守すべきルール」
2日目:臨床アロママッサージ実技練習
3日目:患者さんへ行う実践研修

3日間の研修中は毎日病院へ通いました。講義は病院内にある講堂をお借りし、実技練習や患者さんへ行う施術も全て病院が病棟を研修施設として提供してくださいました。病院側がとても協力的に提供してくださった背景には、補完療法チームのリーダーを務めるキース・ハント氏の尽力があります。 25年前にたった一人で始めたアロママッサージは、現在では複数のセラピストがボランティアや職業として活躍するチームとなり、年間25,000人以上の様々な疾患を抱えた患者さんに対して施術を行っています。医師や看護師、そしてスタッフとの信頼関係が非常に良好であることは、見学をさせて頂きながら実感しました。

 

クレア先生による講演

クレア先生と記念撮影

マッサージのレジェンドとまで言われるクレア・マクスウェル・ハドソン先生による講演から研修が始まりました。15歳からマッサージを始め、17歳で最初のマッサージに関する研究書籍を出版するなど、長年に渡りマッサージを研究され実践されてきた第一人者です。20世紀初めに、現代医療が広まったのを期に行われなくなった病院でのマッサージ療法を現代のイギリスに復活させました。明るく、見る人を安心させるような穏やかな笑顔と話し方が印象に残っています。キース氏は、彼女のことを「どんなセラピストにとっても本当のインスピレーションを与えてくれる人」と評します。

 

熱心に質問する研修参加者

講演では、「触れること」「マッサージの原点とは」「医療現場でのマッサージの意義」などについてお話頂きました。最初のスクリーンに映し出されたメッセージは、「Massage-an Art」でした。この言葉一言で、クレア先生のセラピストとしてのお人柄が伝わってきて、とても共感できる!と親しみを覚えました。

臨床マッサージの研修ですが、その基本は全てのマッサージに共通するもので、まずはそのことを理解してほしいという言葉から始まりました。セラピストは手を通して、そのスピリットや愛を無限大に伝えることができるという点で「Art」であるということです。

アフリカで育ったクレア先生は、動物がグルーミングをする姿や、赤ちゃん動物にとって撫でることがどれほど成長に大切なことかを身近に見て感じて育ったそうです。「触れる」という行為が動物にとってはとても重要なことであり、それは人間にとっても同じことで、厳しい環境を生き抜かなければならない生き物にとって、「触れる」ことは不安を取り除き、生きている喜びを分かち合うものであると語りました。幼いながらに、「触れる」ことは愛情を育むものであることを学んだそうです。

マッサージを行うことをご自身の人生にすることを決意された先生は、その後様々な国を旅して自然療法として発達した各国のマッサージを学ばれ、講演では貴重な体験をたくさん紹介してくださいました。例えばインドではマッサージが日常的に行われ、特にお母さんが赤ちゃんにマッサージをする場面をよく見かけたそうです。講演で紹介されたどの国のマッサージにも、触れることで相手に安心感や愛を伝えるという共通点があり、それが最も大切なことであると話されました。

病院で患者さんに行う際も同様に、話すことができないような状態や、家族がもう何もしてあげられないと悲しみや後悔を感じる時でも、マッサージは言葉を必要とせず、純粋に愛を伝える方法であり、愛されていると感じてもらうことが患者さんへ生きる希望を与えると言います。

「心理面や肉体面で様々な状態が想定され、難しいと感じるセラピストがいるけれど、患者さんにマッサージをすることを特別に思うのではなく、目の前にいる人にただ寄り添い愛を伝えることが大事である。」 というメッセージを頂き、これから臨床現場での研修に臨む私たちに大きな勇気を与えてくださいました。

 

病院で行う補完療法としてのアロママッサージ

キース氏による講演

キース氏によるフェイシャルデモ

実技研修の様子

フェイシャル技術練習

クレア先生は、補完療法チームのリーダーで今回のツアーを快諾し受け入れてくださったキース・ハント氏の恩師でもあります。次に講義をしてくださったキース・ハント氏は、25年もの地道な現場での活動についてお話してくださいました。

終末期患者のケア、高齢者へのケア、集中治療室や隔離病棟でのケアなど、それぞれの患者さんの状態や環境で気を付けること、決めておきたいルールなど、医療チームとセラピストがお互いに信頼し合い、スムーズに、そしてシンプルに活動できるようにするためのアドバイスを頂きました。

「セラピストは医療チームと共に患者さんを支える一員であり、患者さんそれぞれに合わせた施術を行う必要があるが、病ではなく人間を相手にしていることを忘れてはならない、不安やストレス、痛みの緩和にいかにマッサージが役立つのか、院内マッサージの利点を認識し、自信を持って行うことが大切である。」
と教えてくださいました。

1日目の講義でクレア先生やキース氏と打ち解け合い、熱く共感し合った私たちは、2日目に実技練習、3日目に患者さんへ行う施術に臨みました。実技練習でキース氏が繰り返し私たちにアドバイスしてくださったことは、「姿勢・アイコンタクト・笑顔」でした。

臨床の現場では、セラピストの姿勢に特に注意を払う必要があります。サロンのように常にセラピストの背丈に合ったベッドの高さや適切な姿勢で施術ができるわけではありません。座位や横向き、高さの低いベッド、腰に負担をかける姿勢を強いられることも少なからずあります。ケアを優先する余り、セラピストは姿勢を犠牲にしてしまいがちです。

研修では様々な状況を想定して実技練習を行いました。どのような状態であろうと、患者さんが希望し医療チームの許可があれば、全ての患者さんにマッサージを提供するため、セラピストの工夫と判断が求められます。感染症を防ぐためにゴム手袋を使ったマッサージや、弾性ストッキングの着脱を想定した練習も行いました。難しい技術力よりも、いかにその患者さんのために工夫して施術を行うことができるか、参加者からは想像以上に様々な体勢を工夫して行っていることを知ることができ、どのような環境でも患者さんにマッサージを行えるという自信につながったという感想をたくさん頂きました。

そして、キース氏が何度も繰り返しアドバイスしてくださった、「アイコンタクト・笑顔」。たった15分という短いマッサージの時間に、セラピストはシンプルに、でも患者さんにとって有意義な時間にしたいと思い心を込めます。手技を行いつつも、患者さんの表情や態度に目を配り、どこにその患者さんを楽しませたり、和ませたりするヒントがあるのかを探します。そのためには患者さんの目を見て、こちらが笑顔でいることがとても大切です。気持ちは患者さんに伝わるため、セラピストの調子が悪い時や気分が落ち込んでいる時はマッサージを行うべきではないとおっしゃっていました。

主にご紹介してくださった精油のブレンドは、ラベンダーとシダーウッド、スイートオレンジのブレンドオイルです。精油の作用が比較的穏やかであり、尚且つ優しい香りです。キャリアオイルはスイートアーモンドオイルが使用されています。また、赤ちゃん用として販売されているココナッツマッサージオイルも使用します。

 

患者さんへ行う実践研修

実践研修の様子①

実践研修の様子②

キース氏は、実技練習を実際の患者さんに行う機会を作ってくださいました。とても驚いたことに15名以上の患者さんが私たちの研修に協力してくださいました。外来病棟、個室病棟、隔離病棟などを想定して環境を設定し、リンパ浮腫のがん患者、双極性障害、高齢者ケア、悪性白血病、多発性硬化症、神経障害など様々な疾患を抱えている患者さんにご協力頂きました。また、患者さんとの会話も大事であると考え、通訳ボランティアを用意し、意思疎通が滞りなく行える環境設定にも配慮しました。

ツアー参加者は平均10名以上の患者さんをマッサージし、施術で求められる判断力を考え、実践しました。実際の患者さんを施術させて頂ける研修ができたことは、キース氏とセラピストチームの信頼があってこそ。非常に貴重な経験をさせて頂きました。

キース氏は、日本人のセラピストはとても素晴らしいとおっしゃいます。学ぶ姿勢、表情、熱意がとても真剣で、アイコンタクトと謙虚な姿勢は、患者さんに非常に安心感を与え、満足され感謝していたとおっしゃられ、緊張して臨んだ参加者は、研修を終えて感謝の気持ちと自信に満ちた表情に変わっていました。

 

キュー王立植物園

研修の翌日、希望者で世界遺産キューガーデンズを訪れました。ロンドンでは非常に珍しい晴天で、ガーデンツアーにはまたとない日となりました。ガーデン内を案内してくださったのは、ロンドンでアロマセラピストとして活躍されているハリエット・ロビンソンさんです。園内はとても大きいため、1日で全てを見学することはとても難しいです。ハリエットさんはアロマセラピストの目線で、訪れておくべきポイントを絞って案内してくださり、とても効率的に有意義に過ごすことができました。

世界中の植物が共生している温室を巡り、ローズガーデン、芳香植物とハーブのエリアなど、一か所にこれだけの世界の植物が見れる場所はとても珍しいでしょう。アロマセラピストがロンドンへ行ったら必ず訪れてほしいスポットです。

私が特に感動したのは、アトラスシダーやジュニパー、シダーウッドなどの大木です。こんなに雄大な大木のエネルギーや成分を精油として利用できることに感謝し、木にハグをしました。と同時に植物が元気に生育できる環境を残さなければならないという責任もセラピストにはあると改めて考えさせられました。

おわりに

ゴム手袋を着用したマッサージ

今回のツアーに参加された方々は、将来もっと日本の病院や介護の現場でもアロママッサージを普及させたいという熱い想い、願いがあります。その気持ちが真剣な表情や姿勢から感じられ、胸が熱くなりました。多くのセラピストが同じ志しを持ち、力を合わせることができる、その機会は必ず日本にもあるということを実感できたことが非常に嬉しいです。一人でも多くの患者さんに安らぎや希望をお持ち頂けるよう、これからの活動に活かしていきたいと思います。

 

IMSIで開講しているIFPAアロマセラピーディプロマコースでは、臨床アロママッサージを授業でご紹介します! 楽しみにしていてくださいね!

(写真提供:IFPAジャパン)