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●ロンドン・ロイヤルフリーホスピタル訪問&キース・ハント先生来日セミナー報告●
2015年(IMSI学院長 冨野玲子)

2014年9月、ロンドンのロイヤルフリーホスピタルを訪問させていただきました。最新医療が受けられる総合病院として名高いこのロイヤルフリーホスピタルですが、2013年に、さらにこの病院の名を世界にとどろかせるニュースが報道されました!なんと、セラピストが、チャールズ皇太子より大英帝国勲章MBEを授与されたのです。これは、世界中のセラピストに勇気と希望と感動を与える大ニュースとなりました!

キース・ハント先生について

キース・ハント先生

勲章を授与された伝説のセラピスト、キース・ハント先生。

なんと、16歳からロイヤルフリーホスピタルで働きはじめ、現在48年目!
院内で「キースを知らない人はいない」という大ベテランです!

スタッフとして働き始めたキース先生ですが、26歳の時に「患者さんのために何かできないか」と考え、ロンドンにあるクレア・マックスウェル・ハドソンスクールに入学。勤務時間外に1人でボランティアマッサージを始めたのが、この病院の補完療法サービスの始まりだったそうです。

最初は、「前例がない」と、1人のドクター以外全員が反対した病院内での補完療法、現在は、23名のスタッフで、年間27,000人(つまり、1日約70人以上!)にサービスを提供する大規模チームに発展しました。

 

病棟でのキース先生のアロママッサージ

毎朝5時半に出勤して、7:15から始まる手術前の患者さんにマッサージするのが日課というキース先生。

ミニマッサージをするだけで、患者さんの緊張が取れ、麻酔の効き方がとても良くなり、予後の状態がとても良いのだそうです。

キース先生いわく「私たちの仕事は、病気を治すことではなく、患者さんの心を明るく照らすこと」。だから、院内ではいつも明るい色の服を着て、ジョークを言って周囲の人を笑せるのだそうです。

実際、病院の中をキース先生と一緒に歩いていると、周りがパアーッと明るくなるのを感じました。

病室でのマッサージを見学させていただきましたが、何人もの患者さんが、私に「キースのマッサージは最高よ~!」と声をかけてくださいました。

 

ロイヤルフリーホスピタルでの補完療法サービスの流れ

セラピストの持ち物、指さしチャート

患者さんがセラピーを希望して医師や看護師が承諾した場合、下記の情報が記載されたMassage Referral Formがセラピストに届けられます。

  • 病棟
  • 氏名
  • 主治医
  • 病気の種類
  • 放射線治療を受けているか?
    ⇒ Yesであれば、その部位。例えば左胸に放射線を受けていたら、左の背部も施術しない
  • 離されている患者か?
    ⇒ Yesであれば、グローブやエプロンを装着する。
  • その他の情報、コミュニケーション手段(意思疎通ができない場合)、触れてはいけない部位など
  • メディカルチームからの許可の有無

そして、病状によって「週5回マッサージを行う」「週1回、6週間マッサージを行う」など、トリートメントプランが決められるのだそうです。

セラピストは、決められた時間に患者さんの病棟を訪ねます。その際の持ち物は、下記の通りです。

  • 消毒スプレー
  • 2種類のブレンドオイル(1%濃度)
    【TRANQUILITY ブレンド】
    アーモンド油、小麦胚芽油、ホホバ油、ローズヒップ油、アロエベラ、シダーウッド精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油
    【BABYブレンド】
    アーモンド油、小麦胚芽油、ホホバ油、ローズヒップ油、アロエベラ、マンダリン精油、カモミール精油、ラベンダー精油
  • ココナッツ油のクリーム(オイルが苦手な方用)
  • 会話が出来ない方のために指さしで会話するためのチャートや、申し送り用紙など。
 

キース先生に実演していただきました~!

施術内容についてですが、通常どの患者さんにもオイルやクリームを使った15分~20分のソフトなアロママッサージを行うのだそうです。

部位は、背中、首、手、足、顔など、希望に応じて行います。「ソフトってどのくらいの圧?」という私の質問に対して、「がん、白血病、骨髄移植の患者さんには最もソフトに、このくらい。MS(多発性硬化症)の方は感覚を感じにくいので、本の少しだけ圧をいれて」と、細かく実演してくださいました。

ちなみに、がんの方に最もソフトに行う理由は、「がんの転移を促すから」ではなく、「健康な血球成分が低下しているためアザができやすいから」なのだそうです。

「マッサージががんの転移を促すとは考えられない。もしそうなら、入浴後バスタオルで身体を拭くことも、転移を促してしまうじゃないか!」とのことでした。

1件もクレームが起きない、その理由とは?

これまで1件のクレームのないロイヤルフリーでの施術

大部屋でもアロマセラピートリートメントは行われます。

「香りが苦手な方からのクレームはないのですか?」と訊くと、キース先生の答えは、「良い香りが病室に漂うのは、良いことじゃないか!“私もやりたい!”と希望する方ばかりで、クレームなんてある訳ないよ!」ということでした。

尚、アロマセラピーサービスを導入して以来、クレームや事故は1件たりとも起きていないのだそうです。99人の患者さんが満足しても、1人の患者さんで事故を起こしてしまっては、全てが台無しになってしまいます。

患者さんや病院からの信頼を裏切らない様に、徹底的に注意を払っているのだそうです。例えば、ドクターから依頼された部位と違う部位をやって欲しいと患者さんから頼まれた場合、セラピストは単独で判断せず、必ず医師に確認するようにします。

こうして、チーム全員がルールを厳守し、同じ対応をすることで、事故が1件も起きていないという結果に繋がっているのです。

 

待ちに待った、キース先生来日セミナー

全国から多数のセラピストが集合

2014年11月、キース先生が初来日し、「医療の中のホリスティックケア」という1dayセミナーが開催されました。

ロイヤルフリーホスピタルの技術が、日本で初公開されるとのことで、全国各地から病院での補完療法導入に興味のある医療従事者やセラピストたちが、続々と集まってくださいました。

最初に、スライドショーで症例の一部をご紹介いただきました。先天性の遺伝子疾患モルキオ症候群、肝移植、乳がん手術後の腋窩リンパ管線維化症候群、認知症、筋ジストロフィーなど……。

これらは、ロイヤルフリーホスピタルで行われたケアのほんの一部でしたが、病院でセラピストとして働くということは、「人生がバラ色になるような素晴らしくハッピーなこと」と、「思い出すだけでも涙が出るような辛いこと」が融合した、特別な仕事なのだということを感じさせられました。

 

傾聴スキルと注意転換法

セラピスト同士、活発な意見交換が行われました

「セラピストの傾聴スキル」というテーマでは、「自分はもうすぐ死ぬのか?と患者さんに訊かれたら、どうする?」「新しい治療を試すべきか相談されたらどうする?」等という、医療現場でセラピストがよく遭遇する質問事項のケーススタディのディスカッションが行われました。

皆さん、それぞれの現場で培った知恵を出し合って、活発な意見交換がされていましたよ。

質問に対する答えですが、「断定はしない」「無視もしない」「医療スタッフに確認する」というゴールデンルールを守れば、正解はないのだそうです。

病院で働く医療従事者は、時として「病気」だけに目が行ってしまうことがあるけれども、セラピストは、一人の人間として、患者さんと向き合うことが、とても大切。

 

キース先生による注意転換法

次に行ったのは、「注意転換法」というワークです。点滴の針を刺す瞬間など、痛みや苦痛を伴う治療にセラピストが使うテクニック。

アイコンタクトしながら手を優しくマッサージし、「好きな場所は?」「それはどんな所?」「目を閉じて、その場所に行ってみよう!」と誘導します。患者さんが、空想の旅行に行っている間に、「気が付いたら治療が終わっている!」というワークです。皆さん、楽しく実習されていました。

難しい技術ではなく、「心」と「少しのアイディア」があれば、セラピストは色々なことを患者さんに提供できます。

そうすることで、病院は、患者さんにとってより良い医療が提供できるのです。まさに、「代替療法」ではなく「補完療法」。

医療と協力してセラピストにできること、「治す」ためではないセラピストだからこそできる役割、キース先生が何度もワークショップの中で強調されていました。

 

キース・ハント先生の実技指導

キース先生による実技指導

午後は、キース先生が、ピンクのポロシャツに着替えて登場!
実技指導が始まりました!

キース先生のデモンストレーションに一同ほれぼれ~!秘訣は、「ゆっくり」と、「スマイル」、そして「アイコンタクト」!!

「ゆっくり過ぎることはない、ゆっくり行えば行うほど、早くクライアントさんは眠りに落ちる」のだそうです。

ベッドの高さが変えられない、時には柵があったり、点滴や医療器具が置いてあったりする病院の環境では、普段のサロンワーク以上に姿勢の維持が重要なのです。

医療現場では1日10人以上も施術をする訳だから、「腰が痛い」などと言っていられませんよね。キース先生のご指導を通じて、医療現場のみならず、全てのセラピストに共通する、大切なことをたくさん気づかされました。

 

禁忌はなし!どうすれば施術ができるかを考える

グローブワークの実習

ロイヤルフリーホスピタルでは、患者さんが希望し、医師の許可があれば、全ての患者さんにアロママッサージを行います。

「禁忌」という考えはなく、「体幹に触れることができなければ、顔や手足に触れたらよい」「その患者にできることをすればよい」と考えます。

だから、生まれたての赤ちゃんから、亡くなるその日まで、どんな病気の患者さんにも施術をするのだそうです。勿論、感染症などで隔離病棟にいる患者さんにも、グローブ、エプロンを着用すれば、施術できます。

「○○病だからできない」のではなく「○○病でもこうすれば施術できる」と考えるのがロイヤルフリーホスピタル流。受講生の皆さん、グローブを付けての実習をしながら、実技だけでなく、大切なロイヤルフリー・マインドを学びました。

 

簡単そうに見えるが実は手ごわい弾性ストッキングの着脱

お次は、医療用弾性ストッキングを着脱するワーク。

患者さんが弾性ストッキングを着用していた際は、それをセラピストが脱がせて施術をするのですが、施術後は元の状態に戻さなくてはなりません。

キース先生が行うと、簡単そうなのですが……

実際にやってみると、皆さん四苦八苦。これも、クリニカルの現場を想定した、貴重な体験でした。

 

臨機応変が重要!

お腹のアイラブユーストローク

ロイヤルフリーホスピタルでは、セラピストはどんな部位でも施術をします。何故なら、触れる部位、患者さんのお好みの部位は、人それぞれだからです。

顔のみ、足のみなど、1つの部位しか触れることが出来ない患者さんもいれば、毎日毎日部位を変えて欲しいと依頼する患者さんもいるそうです。

中でも、腹部のワークはとても重要。寝たきりで便秘になってしまう患者さんに対して、ロイヤルフリーでは、すぐにお薬を使うのではなく、お腹のマッサージによって自然なお通じ促進するのだそうです。

優しいタッチなのに、触れられるだけでもお腹が動く「アイラブユーストローク」などを学びました。

 

集中治療室でもよく使われる顔のワーク

そして、お顔も重要!重篤な疾患の患者さんは身体が管でつながれていることが多いのですが、お顔は比較的触りやすい所。

集中治療室のように心拍、血圧など全てがモニターに映し出されている現場では、マッサージの効果は一目瞭然だそうです。

5分間のミニ・フェイシャルトリートメントで上がりすぎた数値がスーッと落ち着くのだそうですよ。

病棟でのトリートメントは、「夜中のナースコールが減った」「気難しい患者さんが、おとなしくなった!」など、看護師さんにも好評なのだそうです。

 

うつ伏せ、横向き、仰向けなど、様々なポジションで行うワークも行いました。

「乳がんの治療でうつ伏せになれない」「肝臓の生検を受けて仰向けになれない」など、様々な患者さんに臨機応変に対応する必要があります。セラピストは基本的に、患者さんに「こういう姿勢になってください」と指示することはなく、患者さんにとって楽な、あるがままの状態で施術を行いますので、あらゆる角度からのマッサージを心得ていなくてはなりません。

終了時間を過ぎても、丁寧に質疑応答に応じてくださるキース先生。40年以上ロイヤルフリーホスピタルで働き、20年以上患者さんのマッサージに携わってきたキース先生の経験談を惜しみなくシェアしていただきました。

ご参加の皆様、ありがとうございました! これからも、「スマイル」と「アイコンタクト」を忘れずに、素敵なセラピストを目指していきましょう!

日本では、病院の中でセラピストが活動することは、まだ少数ではありますが、確実に広がってきています。今回は、セラピストだけでなく、医師、看護師、理学療法士、鍼灸師などのご参加もあり、医療従事者の方の自然療法への興味も増してきているようで、とても嬉しく思いました。このキース先生来日セミナーが、必要な人へセラピストの手が届くための、一歩となりますように!!

スマイル、アイコンタクトを忘れずに!

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