NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●アロマセラピーを学びにロンドンへ●
自然療法体験記
鈴木 希

はじめまして。7月から講師となりました鈴木 希です。
専門はアロマセラピーですが、植物療法や森林浴をこよなく愛しています。
精油・ハーブを始め、植物からの癒しを皆様にお伝えしていけたらと思います。
どうぞよろしくお願いします。

キューガーデンズにて

私は2013年6月から15か月間ロンドンに滞在し、ガブリエル・モージェイ先生のスクールITHMAにて東洋医学とIFPA認定アロマセラピーを学びました。

生粋のイギリス人より移民の方が多いのではと思うくらい、様々な人種・文化で超賑わいのロンドンで、私もインド人の大家さんのご自宅で1年間暮らしました。

たくさんの文化が溢れるということはそれだけ食事や人の体質、考え方も多種多様で、大都会ならでは?の冷凍専門スーパーではレンジでチンするだけの食事がとても手軽に手に入ります。

食や健康に拘らない人には便利な街かもしれませんが、だからこそ自然療法はアロマセラピー、リフレクソロジー、アーユルベーダ、鍼灸、漢方、ハーブ療法、フラワーレメディやホメオパシーなど……世界の療法が現代社会に警鐘を鳴らしながら、独立してその地位を築いています。
自分自身が拘りさえすれば、様々な自然療法を専門家に気軽に相談できる、といったところでしょうか。

私のイギリス感動体験とアロマセラピー修行を皆さまにお伝えします。

 

ロンドンへいざ!

2013年6月、大学を卒業してから8年間勤めた仕事を退職し、心機一転、私のアロマセラピー人生を本格的にスタートさせるべく、ロンドンへ向かいました。イギリスへ行くのは2度目でしたが、1人で外国へ行くのは初めてでした。

知り合いも友達もまだ1人もいない地に降り立ち、自信のないたどたどしい英語力で不安だらけ。しかしアロマセラピーを深めたいただその一心で、ここまで来たという喜びもあり、気分は緊張しながらも遂に来た~!という嬉しさでいっぱいでした。

なぜイギリスを選んだのかというと、公的な医療機関でも、統合医療の1つとして、アロマセラピーが研究、実践されていることや、日本での普及との違いを見てみたかったということもあります。

それまで日本でも、仕事の傍らアロマやハーブ、森林浴などの自然療法を勉強していましたが、セラピストとしての道を歩もうと決意した時、アロマセラピーを学ぶことに集中できる場所が必要だと思いました。

でも何よりも、イギリス文化と、特にイングリッシュガーデンをじっくり味わいたかったのが大きな理由です。

ハムステッドパーゴラ

滞在を始めた6月は、植物の一番元気で美しい初夏。満開のバラを大いに期待していましたが、この年はとても寒くて、革のジャケットと折り畳み傘が必需品。バラが咲き出したのは、6月の終わりごろからでした。

夏の季節、イギリスは夜9時半ごろまで昼間のように明るいので、時間を忘れてガーデンでぼーっとすることも心身に平穏を感じる貴重な時間でした。

植物を楽しむコツは季節を味わうこと。大地に生息している植物は、季節の移り変わりと一緒にその生命を全うしていき、東洋医学で言えば、まさしく陰陽五行の中で生きているということです。植物たちが、初夏にとても元気なのは、長くて暗い冬の時期、その生命力を長く「閉蔵」しているから。

イギリスの冬は、午後3時過ぎには暗くなります。雨も多くて、人間も春を待ちわびる日々です。だからこそ、春になるとみんな大いに外へ出かけていき、季節を楽しみます。晴れた日の公園は、日光浴と森林浴をしに来た家族やカップルが、ベンチや草むらに座りこみ、会話を楽しんでいる光景をよく見かけました。

 

ムステッドヒースの森

ハムステッドヒース

アロマセラピーを学びにイギリスへ来た私ですが、もう一つどうしても訪れたい場所がありました。それは、ロンドンから北へ地下鉄で20分くらいのところにある、「ハムステッドヒース」。

ハムステッドは有名芸能人や富豪が住むような高級住宅街で、そこに巨大な森のような公園があります。ロンドンの自然療法のお店の社員は、この森で研修をするとか。憧れていた場所へ初めて足を踏み入れた時、なんて自然はこんなに優しいのだろう、と思いました。

植物や大地の香りを存分に味わうことができ、池ではリードを外された飼い犬が悠々と犬かきをして泳いでいることにびっくり!
時間の許す限り、天気の良い日を見計らって、時には友達と、時には1人で、携帯も圏外になる広大な森へ、緑を満喫しに出かけました。

精油の小瓶の中には植物の恵みがぎっしり詰まっていますが、森はフィトンチッドの宝庫です。嵐でなぎ倒された巨木もそのまま残されていました。人間があまり手を加えないということが大事なのかもしれません。

人間も植物も自然のままに生きることこそ、心身が解放されエネルギーになる……
そんなことを肌で教えてくれた場所でした。

 

ITHMA~IFPA認定アロマセラピーと東洋医学~

ガブリエル先生と

アロマセラピーの学校はイギリスにもたくさんあります。どの学校へ申し込もうかと調べていた頃、ふと本棚の中の1冊の本を思い出しました。

そう、IFPAの初代会長の1人で、IMSI主催のもとで来日特別セミナーを開講されている、ガブリエル・モージェイ先生著「スピリットとアロマセラピー」です。東洋医学的観点から精油を捉え、そのスピリチュアルな作用をとても深く独自の視点で記しています。

精油の精神面へのアプローチに関しては、とても素晴らしい言い回しをされるなと感動し、精油を理解する手助けとして利用していた本でしたが、当時の私は東洋医学についての知識がなく、難しいと感じていた本でもありました。著者紹介の欄を読み返し、ロンドンに学校があるなんて!直観で、ここへ学びに行く!と決めました。

それからというもの、思いは日に日に強くなるばかり。本が難しくて理解できないなら、本人に会って直接講義を受けるのが一番!胸が高鳴りました。

 

ITHMA陰陽五行の図と診断

学校は、ロンドンでも有数のローズガーデンがある、リージェンツパーク内にあります。バラの咲く季節は、たくさんの品種のバラが咲きとても見事です。大学の一部を教室として利用し、他にも様々な機関がスクールを開講し、イベントなども開かれて、多くの受講生が集まっています。

授業初日、これから始まる授業にみんなキラキラしていて、アロマセラピーを学びたい志を感じ、私も嬉しくなりました。初日から精油の授業が始まり、精油の蒸留法、アロマセラピーの歴史、そして精油の産地を学び、初めての香りにも出会い、感動していくうちに、私の気持ちにもスイッチが入って行きました。

少し授業に慣れてきた頃、東洋医学の授業が始まりました。英語で東洋医学……。

始めは違和感があり、何を言われているのかわかりません。日本語の本と照らし合わせながら、単語の意味を一つずつ調べる日々が続きました。ガブリエル先生の身振り手振り、髪を乱しながらの情熱的な解説を聞きながら、陰陽五行や、体や心の状態から診る東洋医学的な症状などを学んでいきました。

英語に存在しない単語も多く、中国語から陰は「Yin」、陽は「Yang」と表記したり、「気」は「Qi」」と表したりするところに、日本語にも共通するものを感じ、また東洋医学の考えは、知らず知らずのうちに、日本人には実はとても馴染みのあるものなのだということに気づき、自分が日本人であることを再認識する機会にもなりました。

東洋医学の視点から体の不調を特徴づけ、それに合った精油を選ぶためには、どの精油が陰あるいは陽で、その精油が五行のどこに属するのかを学び、60種類ほどもある精油を1つ1つ紐解いていくような根気のいる勉強です。

精油1つ1つには、燥や湿、熱や冷などの特徴があり、陰の不足なのか、陽の過剰なのかなど、体の症状に合わせて選び組み合わせていきます。不眠症と一言で言っても、5つのパターンに分けられ、不安症は6パターンの症状に分けられます。当然、パターンによって、選ぶ精油も変わってきます。

 

実技クラスの風景

気の遠くなるような勉強ですが、混乱したら精油を嗅ぎ、これを学びたくてイギリスへ来たのだから負けるものかと歯をくいしばり、教科書をひたすら見て書いてを繰り返す日々。こんなに精油と向き合った月日はないというくらいです。

試験対策としての勉強は終わりましたが、自然療法はセラピストの知恵があってこそ活きるもの。アロマセラピストにとって、最適な精油を選ぶ直観力は、ひたむきに精油を学ぶことで得られるものです。知恵を養う勉強は一生継続ですね!

 

クリニカルアロマセラピー

ロンドンにある、The Royal Marsdenがんセンターで1992年からクリニカルマッサージセラピストとして活躍されているJeannie Dyer先生に、がんセンターでの、がん患者に対するアロマセラピーについての講義を受けました。

アロマセラピーは患者さんの症状を緩和するために用いられ、特に「痛みは個々人の過去の経験や精神的状況と切り離せないもの」との言葉に印象を受けました。がんと一言で言っても本当にたくさんの病状があり、進行も痛みもさまざま。

専門知識も必要となりますが、ドクターやナースとチームを組み、痛みを和らげるためのアロマセラピートリートメントを行うそうです。

精神的な不安や落胆を和らげ、メンタルの面でサポートしてあげることや、睡眠の質の改善などをサポートしていくことで、痛みを和らげることができると言います。マッサージをすると、触れることで気持ちを落ち着かせ、筋肉の痙攣や凝りを和らげたり、脳内で鎮痛作用を発揮する神経伝達物質のエンドルフィンの分泌を促進させたり、血流やリンパの流れの改善が痛みのある部分に酸素を送り届けたりして、肉体面での痛みの緩和につながるそうです。さらに精油を使用することで、嗅覚から感情を司る脳にも作用し精神面からのサポートにもつながるというお話でした。

統合医療としてのアロマセラピーの目的は、リラクゼーションとしてアロマセラピーを行う目的と共通する部分だと思いました。医療の現場に行くと、何かとても特別な施術をしなければいけないという思いがあった私でしたが、病気だから特別なアロマセラピーをするのではなく、どうすれば抱えるストレスを和らげることができるのか、私が学んできたアロマセラピーでも役に立てると実感しました。

病気と闘う人にも少しでも香りやマッサージで癒されてほしい、その気持ちが原点であり、揺るがない目的であると理解することができ、セラピストとして大きな勇気を与えられた講義でした。

やっばり女子!バターブレンディングは楽しい!

バターブレンディング

アメリカでアロマセラピースクールを開校され、各国で講師として活躍されているAndrea Butje先生が2日間、とてもエネルギッシュなバーム作りの授業を開講してくれました。常に笑顔の眩しい彼女の授業は、話を聞いているだけでウキウキします。

クリームやバームは個人的に少量で作りますが、授業となると、とても大胆です!大きな鍋にビーズワックス113g、ココナッツオイル141g、ココアバター141g……といったように、6種類ものバターや植物オイルを合計1キロほど溶かして行きます。

まるで料理教室の見学をしているかの様。真冬でしたが、先生は汗を流しながらの作業でした。珍しいバオバブオイルやクパンナンバターなど、たくさんの植物オイルをふんだんに使ってのバーム作りです。受講生は全員女子!それはもうみんな楽しんでいました。

2日間で作ったバームやクリームは6種類。教室は様々な植物オイルの匂いに満ちていて、食べたくなるような気分。精油だけでなく、植物オイルやバターにもたくさんの種類があり、栄養たっぷりで、作用や特徴も異なります。臆することなく、バーム作りは大胆に、色々な種類をブレンドするのが楽しむ秘訣です!

 

世界遺産のキューガーデンズで芳香植物観察!

キューガーデンズツアーの朝

ディプロマ最終試験が迫る6月のよく晴れた日、ガブリエル先生と受講生はキューガーデンズ入口に集まりました。

今日は1日課外授業!束の間のリフレッシュです。

世界遺産にも登録されているキューガーデンズで、精油や植物オイルに使われる様々な植物を観て回りました。

ダマスクスローズや数種類のローズマリー、メリッサやカモミールなど、たくさんの芳香植物たちが花壇に咲き乱れていました。

 

ヘリクリサムの花

精油の蓋を開けた時のような強い香りはしませんが、葉をこするととてもフレッシュな香りに目が覚めるような、心も一気に開くような気持ちになります。

初めて直接見るアトラスシダーなどのマツ科の木々や、ふわふわの産毛があり表面がとても柔らかいクラリセージ、ヘリクリサムの黄色いかわいい花など、香りは知っていても、実際にその植物の姿を目にすることは、なかなか日本ではできません。

アロマ好きにはたまらない、たくさんの芳香植物の生(ナマ)の状態をじっくり観察できました。

こういう場所が日本にほしい!
自分でアロマ園をいつかやりたいという夢が膨らみます。

 

香り豊かなラベンダーファーム

ラベンダー畑

ロンドンから北へ3時間ほどバスを走らせ、ノーフォークというところにあるラベンダー農場へ出かけました。

そこはイギリスでも有名なイギリス産精油を生産しているところ。植物の生育から精油の蒸留までをご家族で丁寧に行っています。

イングリッシュラベンダー以外にもイングリッシュカモミールやアンジェリカルート、メリッサ、クラリセージなど多種類の精油を生産していました。

とても大きな水蒸気蒸留の機械の前で、農家のご主人に花摘みから精油が出来上がるまでを、とても熱心に説明して頂き、蒸留後の植物や、出来立ての精油と芳香蒸留水も見せて頂ました。

瓶から香る精油に大興奮です!

 

メリッサ精油の蒸留

出来立てのメリッサ精油と蒸留水

その後、広大な敷地にラベンダーが咲き誇るラベンダーガーデンへ。

どこまでも続くラベンダー。
風に乗って香りが漂います。

紫の美しい花に囲まれて幸せ!
テンションは最高潮!

しかし、ミツバチも蜜集めに大忙しで、ハチから逃げたり、雑草にチクッとしたり……

自然に近い状態だからこそ、虫や他の植物と共存しながら、たくましく生きるラベンダーの花と香りに、身も心も洗われました。

精油を愛するのはセラピストだけにあらず。生産している農家やミツバチにも愛されて、ラベンダーは力強く咲き誇っていました。

人工では作れないこの香りのパワーを、これから大切に守っていきたいですね!

 

先生のサロンを訪ねて

素晴らしいハンドの持ち主ジョー先生

いよいよロンドン滞在も残すところ1か月となった頃、1年間実技指導をしてくださったJo先生とSam先生のサロンへトリートメントを受けに行きました。

いつも明るくて、私たちを笑わせながら、1人1人の体の動きに合わせて丁寧に教えてくださった先生のハンドタッチをもう一度体験したかったのです。施術者自身が体を痛めないようにいつも指導してくださいました。

トリートメントで大切なことはたくさんありますが、その愛情の深さには頭が下がります。これぞ西洋人の博愛精神?!と思うくらい、ハートの感じられるトリートメントでした。

アロマセラピーに限らず、どんなセラピーも熟練度が高いほど技術力も高くなるかもしれませんが、大事なことは「愛する」ということ。愛情に関しては上手いも下手もないということも教えてくれました。いつでもどのクライアントに対しても、最大の愛を届けていけるセラピストでいたい、そう思います。

 

夢を新たに!

ロンドンの公園を散歩していると、とても生き生きしている鳥の群れによく出会います。都会のオアシスがたくさんあって、白鳥も珍しくありません。子育てをしている鳥も人間と共存している、そんな風景が美しく、人は自然や動物と共に生きることが大切であると、何度も考えさせられました。

補完療法として東洋医学とアロマセラピーを学びましたが、人が人の健康のために発展させてきた療法には、国は違えど垣根はなく、素晴らしい融合ができることを学べたことが大きな財産です。

素晴らしいものは、何でも一緒に活用したい!
さまざまな療法の融合で現代の健康に寄与できると信じます。わかりやすく、そして楽しく、愛を忘れずに、1人でも多くの方と共感していきたいという夢を新たに帰国の途に尽きました。

ITHMAを卒業し、IFPA認定アロマセラピストとなった私は、生まれ育った横浜でガブリエル先生をはじめ、多くの先生方の教えを1人でも多くの方にお伝えするべく、自然療法サロンをスタートさせました。サロンの中では、施術者とクライアントの枠を超えて、植物の恵みを共有し合うパートナーという存在でいたいと思っています。

また、IFPA認定校であり、ガブリエル先生来日セミナーのオーガナイザーであるIMSIで講師をすることによって、これまでの経験、イギリスでの補完療法事情、イギリスでの生活事情や大好きなイングリッシュガーデンやハーブの話など、受講生に惜しみなくシェアしたいと思っています。ここでお伝えできなかったイギリス感動体験はまだまだたくさんありますので、授業の時やブログでお伝えしていきます。

時には教室から飛び出し、薬草園や森林浴に出かけるなど、植物療法の神髄に共感し合える受講生のみなさんにお会いできることを楽しみにしています!

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