NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●発達障がいのための自然療法からの実践的アプロ―チ●
IMSI 学院長 冨野玲子

「ちょっと変わっているよね」と言われる子どもは、数十年前は、学級に一人か二人はいたものです。落ち着きがないのは、「親の躾がなっていないからだ」とか、「本人の努力が足りないからだ」などと誤解を受けることも多く、間違った認識により批判を受けたり、本人や家族が辛い思いをしたりすることも少なくありませんでした。

現代医学が進歩した結果、「発達障がい」という診断がくだされるようになり、それが「障がい」であると認識されるようになりました。そして、インターネットの時代において、発達障がいに関する情報を誰でも簡単に入手できるようになりました。

そのような中、医療や福祉のサポートに加えて、自然療法によるサポートを希望する保護者や関係者も近年増えています。「なんとなく、良さそうだから」「家庭でできそうだから」「副作用がなさそうだから」など、自然療法にサポートを求める理由は、様々です。発達障がいを持つ方への自然療法のアプロ―チは、どのように行っていくべきなのでしょうか。

一般的な発達障がいの治療法

一般的な発達障がいの治療法としては、「薬物療法」と「療育」が挙げられます。医療機関では、患者の症状に応じて、向精神薬、抗てんかん薬、睡眠導入剤などの薬物が処方されることがあります。これは、根本的な治療ではなく、症状を緩和させるための治療であり、副作用を心配する人も少なくありません。

「療育」とは、「治療」と「教育」を合わせた言葉です。障がいのある子どもが、地域の療育センターや民間の療育機関などで、専門的な教育支援プログラムを通してトレーニングをしていきます。一般的な流れは、まずソーシャルワーカーとの面談、医師による診断、発達検査を経て、心理士や理学療法士などの専門職による個々に合った療育プランが組まれていきます。

自然療法でできること

自然療法(Naturopathy, Natural therapy)とは、薬物や手術など西洋医学的な手法を用いずに、自然にあるものを用いて人の自然治癒力を促進させ、健康に導く療法です。自然療法には、アロマセラピーやフィトテラピーのように植物の作用を活用するもの、ホメオパシーやフラワーエッセンスなど波動に働きかけるもの、身体に直接刺激を与えて行なう手技療法など、様々な種類があります。手技療法の中でも、経絡へ働きかける鍼灸、反射区へ働きかけるリフレクソロジー、筋肉へ働きかけるマッサージ、リンパ系へ働きかけるリンパドレナージュ、身体の構造(骨格系)に働きかけるオステオパシーやカイロプラクティック、脳脊髄液にはたらきかけるクラニオセイクラルなど、実に様々な種類があります。

「色々あって、どれが良いのか分からない」という声が聞こえてきそうですが、自然療法に共通して言えることは、身体のパーツをバラバラに見て、壊れたパーツのみを直そうとするのではなく、人を身体、心、精神から構成される存在と捉え、総合的により良い状態に導いていくことを目的としているということです。そのため、自然療法は、働きかける部位や特徴は異なっても、その効果は一か所に留まるというわけではなく、その人全体に発揮されるという特徴があります。

例えば、睡眠の質を高めるためにラベンダートゥルーの精油を吸入すると、実際には、その作用は睡眠だけに留まらず、呼吸器にも働きかけます。また、自律神経にも作用することから、血圧や心拍の安定や消化機能の改善にもつながるでしょう。また、足のリフレクソロジーを行った場合、セラピストは反射区への施術を行っていますが、実際には足の筋肉の緊張をほぐし、血行促進することにもつながっています。反射区と経絡はオーバーラップしているため、反射区だけではなく経絡も同時に刺激されていて、気血の流れの改善にも繋がっているのです。

このように、どの自然療法も、身体、心、精神を包括するホリスティックアプローチであり、意図する作用を遥かに上回る、総合的な効果が発揮されることが良くあります。「自然療法は副作用がない」と言われることもありますが、実際は「良い副作用がたくさんある」というのが、自然療法の特徴なのです。

「どれを試して良いのか分からない」という方には、まずは一番気になるもの、好きなもの、続けられそうなものから始めてみることをお勧めしています。例えば、香りが好きならアロマセラピーがお勧めですし、足へ触れられることが心地よいと感じるのならリフレクソロジーが良いかもしれません。顔へのタッチがリラックスできるのであれば、フェイシャルトリートメントが合っているかもしれません。堅苦しく考えずに、まずは試してみて様子を見るというのが、自然療法への入り口としては最適です。

発達障がいを持つ人への自然療法における考え方

「発達障がい専門のセラピスト」という方もいるかもしれませんが、殆どのセラピストは特に発達障がいに特化している訳ではないため、突然、発達障がいをお持ちの方や保護者から相談を受けた場合、どのように対応して良いのか分からないということもあるでしょう。しかし、発達障がいであっても他の不調であっても、考え方としては、大きな変わりはありません。

例えば、セラピストが更年期障害を持つクライアントから相談を受けた場合、どのように対応するでしょうか。まずは、コンサルテーションで不調の内容を詳しく聞き、過去の病歴やその他の症状、加えて生活習慣、食事内容、睡眠、ストレスレベルなどについても、詳しくヒアリングするのが一般的です。

そして、その症状に対して医療機関での治療や他の自然療法は受けているのかも確認するでしょう。現在の気分や好み、自然療法に期待することも大切な情報です。そして、全ての情報を統合して、その方にあった自然療法のケアやプランを考え、提案していくことでしょう。その日のトリートメントだけではなく、日常生活におけるアドバイスも重要です。自然療法の目的は、「その人全体をより良い状態に導くこと」であり、「更年期障害を治すこと」ではありません。この考え方は、発達障がいでも同じです。

  • 今困っている不調の内容(症状の内容や、状態をできるだけ詳しく。症状が良くなるときや悪化するときなどのパターンがあるかどうか)
  • 過去の病歴とその他の症状
    • 皮膚や筋肉の状態や気になること
    • 姿勢や動きで気になること
    • 目、耳、口など感覚器できになること
    • 食欲不振、便秘、下痢、腹部の膨満感などの消化器系症状
    • 風邪を引きやすい、膀胱炎になりやすいなどの免疫の状態
    • 冷えやむくみがあるかなど、循環器の状態
  • 生活習慣、食事内容、睡眠、ストレスレベルなど
  • 医療機関での治療や他の自然療法は受けているのか
  • 現在の気分、好み、自然療法に期待することなど

発達障がいの子どもに対する自然療法のアプローチ

「発達障がい」と一言で言っても、様々な症状があります。そのため、セラピストにとって明確なガイドラインがある訳ではなく、常に相手をよく観察して、柔軟に対応することが求められます。施術はマニュアル通りにいかないことも多く、触れる部位や時間、使う道具や姿勢なども、相手によって考慮します。タイムマネジメントにも工夫が必要ですが、やってみないと分からないことも多くあります。発達障がいの方へのトリートメントに関しては、時間にも十分に余裕を持ってスケジューリングしておくのが望ましいです。

発達障がいを持つ子どものケースでは、相手がじっとしていることが難しく、初回のセッションでは施術ができない場合も多くあります。でも、それは相手がタッチングが嫌いな訳ではなく、まだタッチングというコミュニケーションに慣れていないだけかもしれませんし、環境に馴染めていないのかもしれません。

以下、私自身が実際に行っている発達障がいを持つ子どもに対する自然療法のトリートメントのステップをご紹介します。

保護者に抱っこされた状態で行う
子どもへの足のリフレクソロジー

  1. セラピストが保護者に施術をしているところを子どもに見てもらう
  2. セラピストが保護者に施術をするのを子どもに手伝ってもらう
  3. 保護者が子どもに施術をするのをセラピストが手伝う
  4. セラピストが子どもに施術をするのを保護者が手伝う
  5. セラピストが子どもに施術をするのを保護者が見守る

初回のセッションで1~5まで行けることもあれば、初回は1のみ、2回目のセッションでは2のみと、ゆっくりと進んでいくこともあります。4では、保護者に抱っこされた状態で、施術を行なうこともあります。

 

「おもちゃみたい」と子どもに大人気の
ディエンチャン顔反射療法の道具

トリートメントの内容は、精油を香らせながら、ドライハンドで服を着たまま顔、手、背中、お腹、足へのタッチケアや、フットリフレクソロジー、ベトナム式の顔反射療法「ディエンチャン」を取り入れています。ディエンチャンは、「刺さない顔鍼」と呼ばれるセラピーで、道具を使って顔への施術を行います。一見おもちゃのように見えるディエンチャンの道具は、子どもたちに大好評で、初めて道具を見たときにパッと子どもの顔が輝き、「これがいい」と言って保護者を驚かせたというケースもあります。

実際には、発達障がいを持つ子どもだけではなく、保護者やきょうだい児へのケアが必要な場合も多くあります。一家全体が疲れ切っているというケースも非常に多いのです。私は、セラピストが家庭を訪問して家族全体をケアする「ファミリープラン」を用意しておくのも良いと思います。発達障がいのみならず、他の病気や障がいをお持ちの方の家族からの需要も多くあると思われます。

 

おわりに

何か改善したい症状を持っているクライアントがセラピストを訪ねる場合、一般的には2種類のタイプがあります。1つ目は、医療機関を巡って様々な薬を服用したり、インターネットで調べて様々な健康法を自己流で試したりした挙句、藁をもつかむ思いでセラピストを訪ねて来るタイプです。症状を発症してからもう何年も経ち、心身共に疲れ果てている方や、医療不信に陥ってしまった方がやって来るということも多々あります。もう1つは、「医療機関に行く前に、まずセラピストに訊いてみよう」「薬を飲む前に、まずは自然療法でできることはないだろうか」と考えるタイプで、真っ先にセラピストの元を訪れるクライアントです。

どちらのタイプのクライアントのほうが、自然療法の力を発揮しやすいかは、もうお分かりですよね。後者のほうが、自然療法の利用法としては望ましいと言えます。しかし、実際の所は、前者のほうが圧倒的に多いのが現状です。発達障がいも、例外ではありません。

世の中がより複雑になり、人々の病気や障がいも多様化し、現代医学では解決できないことが多く見られるようになってきました。これからの時代、困ったことがあったら何でもすぐに医療機関にかかるのではなく、「まずはセラピストに相談する」ことを選択肢に加える人を増やしていけたら…そんな想いでセラピスト活動を続けています。そして、セラピストが、地域社会の中で人々に信頼される存在になっていくために、もっと学んだり、経験を積んだりできる機会をつくっていけたらと思っています。

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