NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●筋骨格系の障害ー東洋的アプローチによるトリートメント●

IFPA副会長のガブリエル モージェイが、科学的研究に基づいた精油の処方と、リウマチに対する東洋的アプローチについて述べたレポートより要旨を抜粋します。

 

東洋医学による筋骨格系の病理学

東洋医学による筋骨格系の障害は、「痺(Bi)」(痺れ(しびれ)・痛み)とあらわされます。症状としては、痛みや痺れが筋肉、腱、関節にあらわれることで、西洋医学では関節炎、リウマチと表現されます。

東洋医学から見た「リウマチ」は、エネルギーが通る経路において「気」や「血」の流れに障害がでた結果とされ、たいていは、身体に「風」「寒」「湿」などの「病邪」(病因)が侵入されたことに起因します。これらの病邪は外界から侵入し、エネルギーの通り道に留まり、身体に障害を生じさせます。

一方で、外的要因とは関係のないタイプのトラウマや関節の変形、自己免疫不全症に関しては、診断方法や治療法が異なるので注意が必要です。

しかし、ほとんどのケースは、気や血が弱まった「気虚」から「湿」「寒」「風」などの邪気に影響されていることが原因です。関節は、陰と陽が交わり、気や血があつまる主要な場所ですが、病邪が留まりやすい場所でもあるのです。その場所に病邪が蓄積されると、気血の循環を妨げ、関節炎などの痛みを生じさせ」ます。

他には、日常の労働や作業、スポーツなどに起因する、過度のもしくは繰り返し行う身体運動や外傷なども病気の原因として挙げられます。

東洋医学による診断区別

「痺(Bi)」に関係する障害は古来より、3つの主な病因(風・湿・寒)があるいわれましたが、現在では「熱」と「痰」の2種類の要因も関係するとみられています。東洋医学による「痛み」は、その症状や兆候によって、いくつかのタイプに分けられるので、順に紹介しましょう。

① 「風」タイプの痛み

このタイプは、気候の変化に身体がついていけないことが関係していて、筋肉や関節の痛み、関節のこわばりや可動域の制限などが特徴的な症状です。また痛みの患部が他の部位に移動したりします。脈は浮いたような感じ(浮脈)や少し速めの脈拍が特徴です。

漢方ですと、ピリッとした強めの味のボウフウやマオウが使われます。

アロマセラピーでは特にシネオールやカンファーを含んだ、ピリッと強い刺激と香りの精油としてミント、ユーカリプタスブルーガム、ペパーミントがあります。 これらは抗リウマチ、鎮痛、誘導刺激作用があり、さらに、呼吸器系に不調があるときには、これらの抗ウィルス作用も重要な役割を果たすでしょう。

他の選択肢として、ユーカリプタスラディアータ、カユプテ、スパイクラベンダーがあり、これらは抗炎症や抗侵害受容作用をもつ1-8シネオールを多く含み、気の弱い状態「気虚」をも改善します。

② 「湿」タイプの痛み

湿度が高い環境下で症状が悪化するタイプです。
湿気の多い気候の地域に住んでいる方、また、湿気の多い環境で働かれる方は、本当に実感しているでしょう。
また、「脾気虚」の状態が強くなると痛みは増加しやすくなります。
東洋医学での「脾」は食物と水分を変容させる役割をもち、脾が弱くなると「湿」が蓄積しやすくなります。

このタイプの症状は、筋肉や関節の張れがあり、関節が「重たく」感じます。
痛みを感じる部位は特に変化することなく、同じ場所に一定しています。
脈は浮いたような、不安定な脈が特徴です。

漢方では、ヨクイニン、ソジュツなどがあげられます。
アロマセラピーではウッディな香りと甘みのある香りが入り混じったような、温性の精油、ヒマラヤシダーやパインを使います。
ヒマラヤシダーは抗炎症と鎮痛作用が、スコッチパインは鎮痛作用や誘導刺激作用が報告されています。
他にはシダーウッドアトラスやサイプレス、ジュニパー、シベリアモミ、コリアンダーがあげられます。カルダモンは、アスピリンのような鎮痛、鎮痙作用があり、「風」「湿」タイプの痛みにはとくに良い精油でしょう。

③「寒」タイプの痛み

「湿」がリューマチや関節炎の症状を悪化させるように「寒」もこれらに影響します。
このタイプの症状は、関節痛、筋肉痛、関節可動域の制限に加え、関節にこわばりを感じることもあるでしょう。
脈は、手で押さえると、脈がぴんと張ったような感じ(弦脈)が特徴です。

漢方としては、附子(ブシ)やマオウが使われ、これらは温性のハーブで寒を弱め、エネルギーの通る経路を暖め、痛みを緩和します。

アロマセラピーでは、温性で、辛味を感じる香り、シナモンリーフやクローブ、ジンジャーの精油が考えられます。シナモンリーフやクローブに多く含まれるオイゲノールは数々の研究で抗炎症作用が確認されています。
また、オイゲノールは、慢性関節炎の発生要因に関係するキニンに対する抑制効果も報告されています。
同じようなエネルギーをもつ、ジンジャーは「寒」タイプの関節炎にとても重要な働きをします。

④「熱」「火」タイプの痛み

このタイプは、風と湿の邪気が身体のなかで発達することが関係します。
痛みの特徴として、関節に熱を持った感覚、関節の腫れや赤みが挙げられます。
脈拍は、やや速めが特徴です。
2つの主要な漢方としてレンギョウ、ガーデニアがあり、関節の炎症や熱を緩和する苦味と寒性をもっています。
これらと同じような特徴を持つ精油として、ローマンカモミール、ジャーマンカモミール、ヤロウなどがあります。
局所麻酔効果も報告されている、トゥルーラベンダーは甘くハーブのようでありながら、フローラル香りを持ち合わせ、「熱性」タイプの関節炎や痛みを緩和します。

⑤「湿熱」タイプの痛み

「熱」は一般的に「湿」とあわさりやすく、「湿熱」タイプの痛みを生じます。
特徴として「熱」タイプの痛みに加え、関節が重く感じます。
急性の場合では、のどの渇きや発熱なども生じます。
脈の特徴としては、不安定の脈拍で、やや速め脈です。

このような症状のあるクライアントには、レモンやグリーン思わせる香り、レモングラス、メリッサ、ユーカリプタスレモンなどの精油が適応します。
メリッサやレモングラスに含まれるシトラールは、鎮痛作用を示すとともに「気」を循環させ、関節から「湿熱」を追い出すことで、関節炎やリウマチを緩和します。
ペパーミントは「涼性」と「燥」という性質をもつ精油ですが、鎮痛、局所麻酔効果や誘導刺激作用があり「湿熱」タイプの痛みに使われます。

⑥慢性の痛み、骨に影響するタイプの痛み

このタイプは、長期間「風」「湿」「寒」または「熱」が身体の中に蓄積されることで生じます。
気血の流れが、これらによって悪くなり「津液」が滞ると「痰」を生じます。
東洋医学ではいろいろな種類の「痰」があり、実際に目で見える物ではありませんが、これによりエネルギーの通り道が侵されると、筋の萎縮や腫れ、関節の変形が現れます。
痛みは、局所の血於(血の巡りが滞る)によってさらに増加します。

肝や腎の状態も慢性の痛みに関係しています。
東洋医学でいう「肝」は腱や靭帯を支配するとされ、肝が血を十分に供給しないときには、関節に痛みが出ます。これに対して「腎」は骨と関係しているとされ「腎気」や「腎陰」が弱くなると、骨への滋養が減り「痰」が蓄積し、結果として骨へ障害が出やすくなります。

漢方では、ハンゲ(半夏)が痰を取り除くために使われていましたが、慢性障害の臨床においては個人の体質的アプローチも重要になります。

アロマセラピーでは「血」の巡りをよくするターメリック、乳香、没薬が用いられます。
中でもターメリックの精油は抗炎症作用が報告されています。

一般的なトリートメント概要について

筋骨格系へのトリートメントをその原因別にとらえるならば、そのうちのどれが優勢かの違いはありますが「風」「湿」「寒」の3つが主要な発生要因です。
アロマセラピーでも、これらのタイプ別(発生要因別)に精油を選ぶ必要があります。
同じように、「熱」が関係する痛みに対しても単に熱を冷ますような精油を選ぶだけでなく、「風」や「湿」に対するアプローチも必要です。

慢性障害が考えられるときは、単にこれらの発生要因を取り除くだけでなく、「血」の巡りをよくし「肝」や「腎」を強めることが重要です。
特に慢性の症状や自己免疫性疾患には、外用中心のアロマセラピーに加え、漢方の処方や西洋医学による治療も併用することが望ましく、アロマセラピーの施術おいては経絡や「つぼ」に対してもアプローチすることが重要です。

アロマセラピー処方の例

① 風・湿・寒タイプの痛み (風邪が優勢の時)

主な症状
  • 筋肉痛、関節のこわばり、不自由さ。
  • 痛みのある部位が変化する。
  • 浮脈、やや数脈(やや速い脈)
精油ブレンド
  • 50% ユーカリプタス ブルーガム または カユプテ
  • 30% カルダモン
  • 10% ジンジャー
  • 10% ペパーミント
アロマ処方
  • 10ml デビルスクロウの浸出油、35ml 軟膏用の基材、5ml ブレンド精油 患部に塗布。
  • つぼの指圧 膀胱経12 胆経31,39

② 風・湿・寒のタイプの痛み (湿邪が優勢の時)

主な症状
  • 筋肉痛、関節の脹れ、 関節が重い感覚、痛みの部位は動かず一定。
  • 不安定な脈
精油ブレンド
  • 40% ヒマラヤ シダー または シダーウッド アトラス
  • 30% ジュニパーベリー
  • 20% カルダモン
  • 10% ジンジャー
アロマ処方
  • 10ml デビルスクロウの浸出油、35ml 軟膏用の基材、5ml ブレンド精油 患部に塗布。
  • つぼの指圧 脾経6,9 胃経36

③ 風・湿・寒のタイプの痛み (寒邪が優勢の時)

主な症状
  • 強い関節痛、関節のこわばり感。
  • 関節可動域の減少。
  • 弦脈
精油ブレンド
  • 40% ユーカリプタスブルーガム または カユプテ
  • 30% ヒマラヤシダー または シダーウッドアトラス
  • 20% ジンジャー
  • 10% クローブ または シナモンリーフ
アロマ処方
  • 10ml デビルスクロウの浸出油 、35ml 軟膏用の基材、5ml ブレンド精油 患部に塗布。
  • つぼの指圧 胃経36、 督脈6、 小腸経5

④ 「熱」タイプの痛み

主な症状
  • 筋肉痛、熱感をもった関節。
  • 関節の張れ、赤みがかった関節。
  • やや速い脈拍(数脈)
精油ブレンド
  • 40% ラベンダートゥルー
  • 30% ジャーマンカモミール
  • 20% スパイクラベンダー
  • 10% ペパーミント
アロマ処方
  • 5 ml セントジョーンズワート 浸出油、5 ml コンフリー 浸出油、35ml 軟膏用の基材、
    5ml ブレンド精油  患部に塗布。
  • つぼの指圧 胃経43、 大腸経4、11

⑥a 慢性的な痛み(風・湿・寒に関連した血於タイプ)

主な症状
  • 関節痛、こわばり、腫れ。
  • 関節の変形、筋萎縮症。
  • 寒い気候において症状が悪化する。
  • 暗紫の舌
精油ブレンド
  • 30% ユーカリプタスブルーガム または カユプテ
  • 30% ヒマラヤシダー または シダーウッドアトラス
  • 30% フランキンセンス
  • 10% ジンジャー
アロマ処方
  • 5 ml セントジョーンズワート 浸出油、5 ml デビルスクロウ 浸出油、35ml 軟膏用の基材、
    5 ml ブレンド精油  患部に塗布。
  • つぼの指圧 胃経40、膀胱経11, 胆経39

⑥b 慢性的な痛み(風・湿・熱に関連した血於タイプ)

主な症状
  • 関節痛みとこわばり、腫れ、
  • 関節の変形、筋萎縮症、
  • 暑い気候において症状が悪化する。熱の感覚(関節)
  • 赤色の舌、口渇
精油ブレンド
  • 40% ラベンダー トゥルー
  • 30% ミルラ
  • 20% ジャーマンカモミール
  • 10% ペパーミント
アロマ処方
  • 5 ml セントジョーンズワート 浸出油、5 ml コンフリー 浸出油、35ml 軟膏用の基材、
    5 ml ブレンド精油 患部に塗布。
  • つぼの指圧 胃経40、膀胱経11, 胆経39

まとめ

筋骨格系の障害に対するアロマセラピートリートメントを行う上で、以上のアウトラインは完全ではなく、個人の体質や環境を加味したうえで、その症状によっては、適性精油は化学的にも異なるかも知れず、これは単に診断の骨組みにすぎません。また、特に自己免疫性不全や特別な症状に対して、これらを述べたわけでもありません。今回は、東洋的なアプローチとして、重要なプロセスであり、もっとも基本的な方法としての処方例を挙げました。

また、関節炎やリウマチ患者に不安や欝の存在は一般的ですので、当然ながら数々のケースで個人の心理面に注意をはらうことはとても重要です。そして、その処方が常に、効果的でホリスティックであることも確認する必要があるでしょう。

* 文中に出てくる東洋医学特有の単語(表現)および経絡と経穴の番号については、東洋医学の専門書を参考にしてください。

翻訳 by IMSI講師 嵯峨 慈子

ページトップへ