NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●神話かマジックか?●
ジェーン・バックル 筆

ジェーン・バックル

ジェーン・バックル(PhD, MA, RN, IFPA会員)は、ロンドンのThames Valley大学の補完療法におけるプログラムマネージャー/主任講師であり、米国ペンシルバニア大学の客員研究員でもある。アメリカを拠点としたクリニカルアロマセラピーと’M’テクニックの教育コンサルタント組織であるR J Buckle Associates (www.rjbuckle.com)の代表を務める。クリニカルアロマセラピーの2冊のテキストをはじめ、幅広い著書がある。’M’テクニックのコースは、英国でも開催されている。

米国の医療施設における精油の使用をリサーチすると、多くの症例においてアロマセラピーがマジックのような結果を出していることもあるようだ。アメリカで12年間に渡り、12の州の病院、ヘルスセンター、在宅ケなどの医療現場でエッセンシャルオイルの活用について研究してきた筆者の研究を報告する。

 

クリニカルスタディの紹介

皮膚炎

  • ステージ2-5の慢性の創傷:5名の患者に対して、6%の希釈率のジャーマンカモミールとトゥルーラベンダーを1日2回塗布後、全ての患者に改善が見られた。
  • 糖尿病と腎不全患者のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染:アロエヴェラに15%濃度に希釈したティートゥリーを16箇所の創傷に塗布した所、顕著な改善が見られ、病院では全ての創傷に対してこの方法で処置することになった。

高齢者のケア

認知症
  • ラベンダー、マンダリン、プチグレン、ベルガモットの2%のブレンドを使用し、8の病院において高齢者に‘M’テクニックを用い手に塗布したところ、75%に精神面に効果が現れた。
  • 高齢者施設の広間で、14時から16時の間ラベンダーの拡散を行い(11分の拡散と11分休止を繰り返す)10名の認知症患者の観察を行った。10名とも、普段より静かで落ち着いていることが確認された。
  • アルツハイマー患者は長期に渡って向精神薬と鎮痛剤を服用しているが、4週間に渡り、23時から翌朝7時の間に4滴のベルガモット精油を薬の服用前に使用したところ、薬の服用量が低下した。
関節炎
  • 8名の患者に3週間にわたり4%のスィートマジョラムとブラックペッパーを関節炎の起きている手に塗布し、「20in/lbトルクのねじ回し」「靴ひもを結ぶ」「ヴィジュアル・アナログスケールによる痛みの測定」などのテストが行われた。スィートマジョラムは、27%に運動技能の向上、29%に強度の改善、32%に硬直の改善、32%に痛みの緩和が見られた。ブラックペッパーは、18%に運動技能の向上、13%に強度の改善、21%に硬直の改善、23%に痛みの緩和が見られた
  • ユーカリ・ブルーガムを使用しても、「10セント硬貨を拾う」「ボトルを開ける」などのテストも行われ、好結果を収めた。
  • 肩と膝に関節炎を持つ11名の患者に対して、4%濃度のブラックペッパー精油をセルフケアで塗布してもらう試みも行われた。5名は痛みの緩和か可動域の拡大のどちらかが見られ、4名には両方の効果が見られ、2名には変化が見られなかった。

ホスピスでのケア

  • 終末期における痛みの緩和:1%濃度のフランキンセンス精油を’m’テクニックを用い、6名の患者の手に塗布し、0-10のビジュアル・アナログスケールで痛みを測定した所、5名に顕著な痛みの軽減が見られた。
  • 不安と痛み:20箇所のホスピスで、落ち着きのなさと不安が見られる終末期の患者に対し、3%のラベンダー精油を用い、20分の’m’テクニックによる足と手のセッションを行った。脈拍、呼吸、身体症状(固く強張った手や、顔の深い皺、身体の緊張など)を施術の前と後で比べた。100%の患者に心拍数と呼吸の落ち着きが見られ、70%には家族が身体症状の軽減を確認した。
  • ホスピスに入院中の7名の患者に対して、スタンダードケアに加え、ラベンダー、サンダルウッド、フランキンセンスをアロエベラジェルに1%に希釈して’m’テクニックのハンドマッサージを行った。家族の一人がそのテクニックを習得し、継続して行ったところ、マッサージによって穏やかな患者の最期を見守ることが出来た。

がん

  • 乳がんの化学療法を受けている9名の患者に対して、ペパーミント精油の吸入を行った。全ての患者はゾフラン(制吐剤)を処方されていた。ペパーミントはゾフランの服用量を減らし、薬代の軽減につながった。
  • 14名の乳がん患者の放射線療法後の火傷に対して、片方の胸にはジャーマンカモミールとラベンダーのブレンドを処方し、半数の患者にはトリアムシノロン(副腎皮質ステロイド)を処方し、1日2回の塗布を行った。精油を使用した患者のうち、5名はトリアムシノロンと同等の効果が見られた。3名は火傷の発症が遅れた。5名は香りが好みではなかったので中止した。

手術の現場

  • 静脈が浮き出ておらず、静脈穿刺をするのが難しかった8名の患者に対し、静脈穿刺の10分前に20%に希釈されたブラックペッパー精油の塗布を行ったところ、全ての患者の静脈が見つけやすくなった。
  • 手術前の100名の患者に対して、グレープシードオイルに5%に希釈したジンジャー精油を鼻の下に塗布したところ、制吐剤の使用が軽減した。患者の80%は、手術後の吐き気や嘔吐がなかった。また、手術の麻酔前に患者の脈拍ポイントの上にジンジャーを塗布し、嗅ぐように促した。
  • 17名の入院患者が、治療の前にパーソナル吸入器により片方の鼻孔に各5秒間、ペパーミントの精油の吸入を行った。ESAS(Edomonton Symptom Assesment System)を使用して計測したところ、吐き気が低下したという結果が見られた。

感染症

ユーカリレモン、ローズウッド、トゥルーラベンダー、ティートゥリー、コモンタイム(チモールタイプ)の試験管実験が行われた。各精油は水に希釈し撹拌され、1:2、1:4、1:8、1:16、1:32、1:64、1:228、1:256の割合で、黄色ブドウ球菌、肺炎レンサ球菌、大腸菌、緑膿菌、肺炎桿菌に対する殺菌作用が試験された。
その結果、

  • ユーカリレモンは、黄色ブドウ球菌と肺炎レンサ球菌に対して1:4の濃度で効果が見られ、大腸菌に対しては原液で効果が見られた。
  • トゥルーラベンダーは、肺炎レンサ球菌に対して1:2の濃度で効果が見られた。原液では、緑膿菌以外全ての菌に対して効果が見られた。
  • ティートゥリーは肺炎レンサ球菌に対して1:16の濃度で、肺炎桿菌に対しては1:4の濃度で、黄色ブドウ球菌と大腸菌に対しては原液で効果があった。
  • ローズウッドは1:16の濃度で大腸菌に対して、1:8の濃度で肺炎レンサ球菌に対して、1:2の濃度で肺炎桿菌に対して効果があった。
  • コモンタイム(チモールタイプ)は1:256の濃度で肺炎レンサ球菌に対して、1:128の濃度で黄色ブドウ球菌、肺炎桿菌、大腸菌に対して効果があった。緑膿菌に関してのみ、原液で効果が見られた。

また、塩水に5-10%濃度で希釈した精油を使用し、患者の血液から培養されたMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)に対して実験された。使用された精油はティートゥリー、パルマローザ、ペパーミント、ラベンサラであった。この中で最も効果があった精油はパルマローザであった。この研究は現在も進行中であり、その他にも多くの精油の抗菌活性の実験が行われている。

精油が、時には現代医学では成しえないマジックのような効果を発揮する事例を紹介してきた。MRSAについての活性がその主な例であるが、MDRTB(多剤耐性結核)、VREF(バンコマイシン耐性腸球菌)についても同様のことが言えるであろう。

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