NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●吐き気と嘔吐の対処●
ジャネッタ・ベンソイラー 筆

不妊治療、妊産婦、ホリスティック皮膚科学を専門にしている鍼師/アロマセラピストで、Satovitaというトレーニングセンターでアドヴァンスコースの講師も務める。共著に”Aromadermatology: aromatherapy in the treatment and care of common skin conditions(アロマダーマトロジー:皮膚症状におけるアロマセラピー)”がある。

吐き気と嘔吐の要因は、胃腸症状、神経症状、代謝、心臓血管系、心理的な要素、そして、化学療法、放射線療法、抗生物質などの治療が原因のものなど、様々である。手術後の嘔吐は、脳幹にある嘔吐反射が刺激されることが原因と思われる。また、脱水症状、電解質のアンバランス、誤嚥、手術部位の損傷なども、手術後の吐き気と嘔吐の原因となりうる。
近年、制吐薬が改良されたにも関らず、50%以上の化学療法後の患者が、急性または遅延性の吐き気を訴える。

吐き気と嘔吐は最も良く見られる妊娠の兆候でもある。通常妊娠初期のみで治まるが、それが妊娠期間中ずっと継続すると、妊婦や家族の生活に多大な影響を与える。

この記事では、吐き気と嘔吐のコントロールにおけるアロマセラピーの活用例を紹介する。プラクティショナー達が、臨床の現場でクライアントのケアをする際に役立てて欲しいと願っている。この記事のデータには、ハーブやハーブサプリメント、精油の経口摂取は含まれていない。

精油の活用

ペパーミント

American Society of PeriAnesthesia Nursesという学際的な団体が、補完療法と手術後の吐き気と嘔吐のためのガイドラインの作成に着手した。その中で、アロマセラピーと鍼(ツボの刺激も含む)が最もエビデンスが多い療法であった。アロマセラピーに関する二つの研究が記載されているが、その両方がペパーミントに関する内容であった。
婦人科系疾患の手術を受けた18名の患者にペパーミント精油を吸入してもらったところ、プラセボ(儀薬)を使用したグループと比べると術後の吐き気と嘔吐が減少した(1997 Tateの実験による)。

もう一つの資料は、吐き気を訴える33名の通院手術患者に行った二重盲検試験(2004年に行われたAndersonとGrossの実験)である。ペパーミント精油を含ませたパッドと、プラセボとしての等張食塩液とイソプロピルアルコールのパッドを使用した。ヴィジュアル・アナログスケール(VAS)にて吐き気の強度を測定し、患者の鼻孔の下にパッドを置いて匂いを吸入し、口から息を吐く呼吸を行った。2-5分後に、再度VASにて吐き気の強度を測定した。どちらのパッドにおける実験でも吐き気が減少したことから、香りの効果というよりは、深い呼吸のパターンが吐き気を減少させたと思われる。

ジンジャー、アニスシード、フェンネル、ペパーミント、ローマンカモミール、カルダモン、タラゴン

2005年のGeigerの研究によると、術後の吐き気と嘔吐が予測される患者の手術前に、吐き気の予防の静脈注射と並行して、グレープシードオイルに5%濃度で希釈したジンジャー精油を手首に塗布した。6ヶ月に渡るリサーチの結果、この方法は80%の患者に有効で、術後の回復期に吐き気の症状が見られなかった。手首には、後述する吐き気のツボ「内関」が存在する。

2005年のGilliganの実験によると、25名の吐き気を訴えるホスピス病棟の患者に様々なアロマセラピートリートメントが施された。処方された制吐薬とオピオイド(モルヒネ様物質)に加えて、4種の精油が使用された。精油とは、アニスシード、フェンネル、ペパーミント、ローマンカモミールで、患者に個々の精油とブレンドされた精油を嗅いでもらい、嫌いな香りがある場合は使用しないようにした。単品では嫌いでも、ブレンドされた物では大丈夫であるということもあった。精油は、腹部の温湿布、電気式のディフューザー、エアースプレーによって使用された。腹部のマッサージも提案されたが、殆どの患者が辞退した。測定の結果、68%の患者に吐き気の改善が見られた。

フランスの実験では、73名の術後の患者に対して、ジンジャー、カルダモン、タラゴンの精油のブレンドの原液を、吐き気が起こるとすぐに頚動脈脇に塗布した。73名のうち50名が、塗布後30分以内に症状は完全に治まった。精油が嗅覚に対して作用したのか、皮膚吸収によって作用したのかの特定が出来ないが、この医療現場での実験は興味深く、他の現場でも応用可能であると言ってよいであろう。

嗅覚過敏と吐き気

2002年にHummelらにより、53人の妊娠初期の女性を対象に、嗅覚過敏がつわりに影響を与えるのかどうかの実験が行われた。嗅覚や吐き気についての問診の後、匂いの識別、匂いの判別、匂い閾値(嗅覚受容器を刺激するのに必要な最小の値)の検査が行われた。結果は、妊娠初期の女性の嗅覚過敏は、つわりにそれほど影響を及ぼさないことが分かった。研究者達は、妊婦の嗅覚過敏は全ての匂いに対して起こる訳ではない為、妊娠期には嗅覚の過敏性が変化するのではなく、嗅覚認識のプロセスが変化するのであるとしている。また、妊娠期間中はある種の匂いがつわりを誘発することにも触れている。

 

ツボの刺激

腕の内側、手首の皴から指3本上のツボ「内関(心包系6番)」は吐き気と嘔吐を抑制する。1996年のViclersのツボの実験によると、つわりのある妊婦にこの内関のツボを刺激すると、他のプラセボを試用したグループと比べて著しい改善が見られた。他の実験でも同様の結果を出していることから、この内関のツボの刺激や、手首に着用するリストバンドは、妊婦のつわり改善に有効であると記されている。

最近の実験データによると、化学療法を受けた54名の乳がん患者にこのツボを刺激したところ、吐き気の改善が見られた。この実験では、患者は5日間腕の両側にリストバンドを装着し、2時間おきに2-3分間手首を軽く圧迫するように指示された。何もしない比較グループと比べて、リストバンドを使用した対象者達は、吐き気と嘔吐の著しい改善が見られ、副作用は一切なかった。

 

結論

吐き気や嘔吐に対するアロマセラピーに関するデータは少なく、幅広い分野をカバーしている訳ではないが、この記事がプラクティショナーの助けになり、最適なトリートメントを選択する役に立ってくれることを願っている。アロマセラピーが、この臨床現場でよく見られる症状に有効であり、エビデンスを確証するための更なるリサーチが行われるべきであることを提案する。

 
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