NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●天職~アニマルアロマティックを用いた動物への臨床報告~●
キャロライン・イングラハム 筆

キャロライン・イングラハム

20年以上前にアロマセラピストの資格を取得したキャロライン・イングラハムは、芳香植物と動物との共生を永遠のテーマとしながら活動中である。1995年に動物アロマセラピーのスクールを設立。英国獣医学協会などの専門団体から講演を依頼されるなど、彼女の動物へのアロマセラピーの活動は国際的に知られている。www.ingraham.co.uk

 

「アニマルアロマティック」では、芳香植物の抽出物、海藻、クレイ(粘土)などの自然のレメディを動物に対して使用する。このセラピーでは、野生動物がそうするように、動物に自分でレメディを選ばせる。動物は、生まれつき必要なレメディと用量を選ぶ能力を持っていると考えられる。 合成薬は代謝しにくいため、服用し続けると毒素が蓄積したり、副作用が現れたりするが、動物は、殆どの植物成分を消化して中和する酵素を作り出す能力を身に付けている。精油や薬草は苦味を持っており、健康な者には食べられるものではないが、病気になった動物は、必要のある時に、必要な分だけ薬草を摂る。

私は1984年に精油についての勉強を始めた。しかし、この豊富な知識は勉強によって得たのではなく、様々な経験の中から動物達に教わったのだ。私は、仲間からはぐれた動物や、小さい頃に母親から引き離された動物は、ネロリを選ぶことに気付いた。また、レスキューセンターから来た動物は、ローズかリンデンブロッサムを選ぶようだ。アレルギーによる呼吸器系疾患を患っている馬は、症状が激しい時はオウシュウヨモギを、症状が落ち着いてきたらジャーマンカモミールを選ぶ。細菌感染を起こした動物が選ぶオイルには、必ず抗菌作用があるのである。動物がオイルを選ぶのを観察することによって、私は多くのことを教わった。また、内臓疾患には口からオイルを摂り、感情面のトラブルには吸入するというように、動物が症状によってオイルの摂取方法も使い分けることを発見した。

芳香植物の利点

動物は、症状が悪化する前に、それを治す方法を知っている。例えば、馬が怪我を負った時、通常アズレンが多く含まれるヤロウを内服する。緊急にレメディが必要な馬は舌の下で精油を舐めるようにする。緊急でない場合は舌の上で舐めるのである。舌下投与された物質が最も早く血流に達するのを知っているかのようだ。症状が回復した後はそのレメディに見向きもしなくなる。

激しい腹痛に襲われた馬のケースを紹介する。その馬は7時間便通がなかった。5種類の腹痛に良いといわれる精油や抽出物(海藻エキス、ジャーマンカモミール精油、ローマンカモミール精油、ペパーミント精油、フェンネル)のうち、彼はペパーミントを選んだ。50%希釈のペパーミントを50mlも飲み干した後、15分後に便通が見られ、腹痛は治まった。これは、通常よりも高濃度の使用である。

精油は、病気や外傷だけではなく、行動にも作用する。匂いの識別は、動物が生存していく上でとても重要であるため、哺乳類と爬虫類は2種類の匂いを感知するシステムを持つ。「鋤鼻器官」と「嗅覚」である。鋤鼻器官は殆どの哺乳類に見られるフェロモンをキャッチする器官で、これにより匂いは大脳辺縁系を直接刺激し、動物本来の反応を引き起こす。多くの動物は、人間と違い、脳の新皮質ではなく、本能を司る大脳辺縁系を使って行動する。大脳辺縁系は原始的な反応を司ることから、匂いは意識された考えや記憶よりも深い部分に働きかける。

最近、ウィンチェスターのスパーショルツ大学の学生達と調査をしている間、カメレオンが怒りと憤りの感情を開放するローズの精油を好むことが分かった。カメレオンが精油を吸入すると、怒る時に出現する黒い斑点が現れたり消えたりした。これを30分間繰り返し、十分に香りを堪能した後、カメレオンはいなくなった。

ケニアでの経験

2007年初頭、私はケニアのデイビッド・シェルドリック野生動物トラスト(※1)から、孤児のゾウのケアを行うチームの一員として任命された。家族を失い、消えない悲しみを持つ赤ちゃんの感情のケアをするのが任務だ。これらの若いゾウの死因の一つはクレブシエラ属の細菌によって起こる肺炎である。悲しみの感情は肺に影響を与えるため、多くの呼吸器系疾患には感情面と免疫系に働きかけるレメディが必要である。

私達はゾウが生息する地に自生する植物の精油を持ってケニアに向かった。レモンバーベナはアフリカの種族が肺の感染症を予防するために使用する薬草であるが、ゾウはこのレモンバーベナに驚くべき反応を見せた。科学的な試験によると、この精油は肺炎桿菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、サルモネラ菌、カンジダ菌に対する抗菌作用が見られた。

心理的には、レモンバーベナは混乱や不要な考えを取り除く。悲嘆、塞ぎ込んだ感情、傷つき易い成長期に用いられることから、このゾウたちに適していると言える。

2月23日私達は林の中に入り、最も若いゾウたち(生後6週から数ヶ月)がどんなレメディを選ぶか調査をした。

一頭の赤ちゃんゾウはアンジェリカルートとレモンユーカリを選んだ。このゾウはオイルを選んだ後、鼻を立てて痰を吸引するようなしぐさをした。マウントケニアミントやレモンユーカリのような、他の呼吸器系に作用する精油を選んだゾウたちにも同じしぐさが見られたゾウは咳をすることができないため、これで痰のつまりを解消するのであろう。

レメディを摂取した後、私の様な他人に対しては大変珍しいことなのだが、孤児のゾウが私の膝の上に登り、寝そべってそのまま深い眠りにおちてしまった。ゾウが眠っている間、他の年上のゾウが鼻で彼の顔をずっと撫でていた。

次の日、私達は新しいオイルと使用法を発見した。驚いたことに、母親をなくした赤ちゃんゾウたちがネロリを気に入らなかったのだ(通常は、喪失感にはネロリが用いられる)。彼らの生息地に自生するミモザ(※2)がネロリに取って代わった。私が、手からミモザのオイルをゾウたちに飲ませると、ゾウたちの目からは涙がこぼれ落ち、喪失感と悲しを解放しているようだった。このゾウたちは、アンジェリカルート、ミモザ、アルニカ浸出油、ローズの以外のオイルは一切選ばなかった。通常、トラウマを持つ多くの動物は、様々なオイルを選ぶため、これは珍しいことであった。

平均2歳くらいの少し年上のゾウたちも、面白い結果が見られた。赤ちゃんゾウたちと同じ精油を好んだだけではなく、彼らはクレイ(粘土)(※3)、特にレッドクレイとグリーンクレイにも興味を示したのだ。このくらいの年齢のゾウは、ミルクを常食とし、また大量の植物を餌として摂取する。アルカリ性のクレイは、ミルクの酸の蓄積を解消し、また摂取した植物の毒素を血流に到達するのを防ぐと考えられる。野性ではゾウはクレイを求めて何百マイルも歩くのだそうだ。

その他、ゾウたちはレモンユーカリ、レモンバーベナ、レモングラスなどのオイルも好んだ。彼らはイングリッシュペパーミントよりも、アフリカに自生するマウントケニア・ミントを選んだ。

私達は、サイとゾウの怪我の治療にも取り組んだ。サイは、死海の泥60mlにガーリックとビターアーモンド(感染症予防)の精油をそれぞれ10滴と、ニーム(抗寄生虫とハエ除け)を小さじ半分のブレンドを選んだ。私達は始めにミツロウ(これもサイが選んだ)を傷に塗り、その後死海の泥で覆った。1週間後には傷は小さくなった。

1 The David Seldrick Wildlife Trust

自然愛好家ディビッド・シェルドリック氏を記念して1977年にケニアのナイロビ近郊で設立された。ディビッド・シェルドリックはケニアのツァボ東国立公園の監視所の設立者で、ここで1948年から1976年まで勤めた。この協会はケニアの野生動物の保護を目的としており、密漁の禁止、奉仕活動、巡回獣医の派遣、救助、孤児のゾウとサイの養育とリハビリなどを行っている。

2 ミモザ

ミモザの抽出エッセンスの心理的作用は、不安、うつ、神経症状、ストレス、神経過敏、昔の記憶など。深い鎮静作用があり、コミュニケーションの扉を開くのに役立ち、混乱を解消し、心配と恐れをなだめ、スピリットを高める。ネロリに反応をしない場合に用いると良い。樹皮は40%のタンニンを含む。英国薬局方では大腸炎などの下痢症状に敵称される。刺激性、感作性、毒性なし。

3 クレイ

レッドクレイは、バクテリアを無毒化するため、通常下痢、胃潰瘍など消化器系症状に使用される、また、骨の形成に必要なカルシウムの供給源であると共に、吸収にも役立つ。科学的な名称はカルシウム・モンモリロナイト・クレイと言う。グリーンクレイは、レッドと性質は似ているが、消化管から寄生虫を排除するために用いられる。緑の色は酸化鉄と海藻などの海洋由来の植物分解物である。

Sinyaの治療

2007年10月、デイビッド・シェルドリック野生動物トラストより、タンザニア国境近くの井戸で救助されたアンボセリゾウの赤ちゃんシーニャの治療を依頼された。彼女の身体には大きな打撲があり、背中は腫れ上がり、右前脚と顎と耳には擦り傷があり、身体中にハイエナに噛まれた跡があった。化膿した傷の上で、組織が壊疽し始めていた。

シーニャは毎日抗感染薬の注射をされていた。傷の洗浄をすることはとても強い痛みと苦痛を伴うため、私の到着の2日後に、麻酔をしながらの洗浄が予定されていた。

私のエッセンシャルオイルキットには、抗バクテリア作用があり感染症を防ぐガーリックが含まれていた。シーニャは時には5mlの未希釈のガーリックを摂取した。また、オイルを吸い込んで、汚れている箇所に吹き付けた。私がオイルの瓶を手に持っている時は、私の手を自分の口に引き寄せたり、私がオイルをポケットに隠し持っている時は探す素振りをしてオイルを欲しがった。

彼女のひどい傷には、グリーンクレイとレッドクレイが最適であった。生傷のひどい部分にはレッドクレイを塗布した。そして、傷を保護して乾燥させるためにグリーンクレイにターメリックを混ぜたものを塗った。この方法は、傷を保護しながらも空気を通し、毒素を排泄するのに適した方法である。バクテリアが損傷を受けた組織に入るのを防ぎ、ハエ除けにもなる。

数日間で傷はすっかり良くなり、獣医は麻酔を使用しての洗浄はもはや必要ないと判断した。その数日後には、壊死した皮膚の下から新しい健康な組織が生まれ始めた。シーニャは、デイビッド・シェルドリック野生動物トラストが扱った中で最も深刻なケースだった。彼女は何週間もの間、家族を失った悲しみと想像を絶する痛みに耐えていた。現在、彼女の傷は癒され、この美しい赤ちゃんゾウは回復の道を歩み始めている。

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