NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●バリ島・通訳デビュー●
2008年(冨野玲子)

「バリで行われるエサレンボディワーク資格認定コースの通訳をやらないか?」と恩師・エレン先生に持ちかけられたのは、2007年10月のことでした。海外のワークショップに生徒として参加することはあっても、仕事で通訳というのは、初めてです。まさに晴天の霹靂でした。散々迷った挙句、エレン先生からの説得と、IMSIスタッフの応援もあり、お受けすることになりました。

エサレンボディワークは、決まった技術ではなく、施術者が、クライアントの身体の声を聞きながら、直感的に行っていくボディーワークです。だから、授業でも、先生が一体何を喋るのか、見当がつきません。「授業内容を事前に教えて欲しい」と言おうものなら、キョトンとされてしまいます。

こうなったら、「備えあれば憂いなし」です。基本会話に慣れるために、出発直前まで、仕事帰りに英会話スクールや英会話喫茶なでに通いつめました。また、海外のマッサージのDVDを繰り返し観て専門用語を頭に入れ、解剖学の本を読み、ボディワークに関連ありそうな基本的な用語を一覧表にまとめました。

とはいえ、現地に行ったら緊張で頭が真っ白になってしまうのが予想できます。だから、現地で常に手元に置いておくための参考書も必要です。

バリで私が実際に愛用していた本をご紹介します。通訳でなくても、これから海外のワークショップに参加したい方、セラピストとして海外で働きたい方にも、きっと役に立つと思います。

骨単・肉単(エヌ・ティー・エス)

ボディーワークの授業には、骨と筋肉の勉強が欠かせません。また、骨や筋肉の名前だけではなく、関節や骨の突起の名前など、細かい名称を知っていなければなりません。骨単・肉単は、ヴィジュアルからと語源からと、両方から覚えられるため、大変助かりました。ワークショップ内容によっては、シリーズの脳単、臓単も役立つでしょう。

ボディナビゲーション(医道の日本社)

初心者からプロまで愛用している、身体の各部の「触診」を詳しく勉強するのにお勧めの本です。原書の「Trail Guide」と日本語訳の「ボディナビゲーション」を一緒に並べて見れば鬼に金棒です。

クリニカルマッサージ(医道の日本社)

筋肉の名前(英名、和名)とその働き、付着部分、効果的なマッサージ法などが分かりやすく紹介されているのでお勧めです。上記ボディナビゲーションと併用しても良いでしょう。マッサージセラピストのための本です。

カラースケッチ解剖学(広川書店)

ロングセラーの解剖学。「解剖学の塗り絵」でもあり、「解剖用語の英和・和英辞典」でもあります。大きくて、ものすごく詳しい本なので、分解して必要な箇所だけ持参しても良いでしょう。如何ようにも使える便利な本です。それと、電子辞書が必携です。私はカシオのEX-Wordというものを愛用しています。英和、和英、広辞苑などは勿論、医学事典、医学英和・和英、医学略語、薬の辞典など、医学系の情報がたくさんあって、重宝しました。解剖生理学用語は、普通の英語辞書に載っていないことも多いので、医学英語専門の辞典が必要です。

さて、上記グッズでスーツケースをパンパンにして、乗り込んだ1ヶ月間のバリでの生活。事前の準備が万全なら、後は体力と精神力の勝負です。

現地に到着して、すぐにたくさんの精油を購入しました。夜は安眠、朝はスッキリと目覚めることが重要です。朝7時からの授業ですから、5時起きの毎日で、特にペパーミントは助かりました。また、朝食後に襲ってくる眠気には、ジンジャーのスライスをかじることで対処しました。

英語での授業は、120%集中していないとついていけませんが、肝心な所で、隣の人がくしゃみをしたり、ニワトリが鳴いたり、イライラすることもしょっちゅうです。でも、集中力が途切れる原因は、周りのせいではなく自分のせいだと気づいたのです。それからは、深呼吸して周りの喧噪をシャットアウトして、どんな状況でも集中することができるようになりました。普段からやっている瞑想が、役に立ったのかもしれません。

期間中は、2冊のノートを使い果たしました。日本語の講義なら別にノートを取らなくても良いような内容でも、英語の講義では、頭がイッパイイッパイですぐに忘れてしまいます。自分の記憶力を過信せず、聞いたらすぐにメモを取ることを心がけました。ワークショップが終了した今になってみると、この2冊のノートは宝物です。

 

そして、最後まで絶対に諦めないこと、心のモチベーションを高めることも重要です。授業中に、先生が突然「ハィオイドの重要性」について語り始めました。その単語を知らないので、サッパリ分かりません。

「ああ、もうダメだ・・・」と思った瞬間、手にしていた「カラースケッチ解剖学」のたまたま開いていたページに「Hyoid 舌骨」と書いてあるのを発見!まるで宇宙語だった先生の説明が、スルスルスルーっと頭に入ってくるようになりました。諦めない気持ちに、神様が味方してくれたような気がしました。

慣れない仕事で、冷や汗をかくこともたくさんありましたが、今回の1ヶ月間のバリ滞在で、たくさんの気づき、学びと成長がありました。「ボディワーク歴40年」というキャリアのある先生と一緒にいるだけでも、人として、セラピストとして、学ぶことがたくさんあります。

今後は、この経験を活かして、海外で自然療法を学びたい人のサポートや、海外の先生方を日本に招いてのワークショップ開催なども行っていけたらと思っています。日本のセラピストの皆さんにも、言葉の文化の壁を越えて、どんどん世界の良いセラピーに触れていただきたい、そのためのお手伝いが出来たら、これほど嬉しいことはありません。

 
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