NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●ロンドン出張報告●
~ロイヤルフリー病院訪問と英国本場のアロマセラピーに触れる旅~
2017年(IMSI学院長 冨野玲子)

2017年5月、出産後はじめて、3年ぶりにヨーロッパを訪れました。短い旅でしたが、ヨーロッパに来たのなら、ロンドンの地を踏まずには帰ることはできません。ロンドンは、私のアロマセラピーの学びの原点なのです。

リージェンツ大学でアロマ三昧の日々

真っ先に向かった先は、地下鉄Baker Street駅すぐのリージェンツパークです。

この公園内のリージェンツ大学は、かつて私がアロマセラピーを学んでいた場所です。ローズガーデンの美しい季節に戻ってくることができて、とても幸せでした。

 

ここで、ガブリエル・モージェイ先生に出逢ったこと、授業がチンプンカンプンで、遅くまで図書館で勉強したこと、マッサージがうまくできず、慈子さん(←元クラスメイト、現副学院長)になぐさめられたこと、試験勉強に行き詰まってガーデンを散策し、植物に癒されたことなど・・・
たくさん思い出しました。

ここで、「寝ても覚めてもアロマ三昧」だった日々を過ごしたからこそ、今があります。ガブリエル先生は、この時期にはロンドンにいらっしゃらず、お会いできず残念でしたが・・・、

美しくて芳しいローズガーデンの中で原点回帰して、ちょっとだけ想い出に浸ってみました。

 

ロイヤルフリー病院と、その補完療法チームが勲章を受章した理由

さて、今回ロンドンを訪れた1番の目的、それはロイヤルフリー病院を訪ねることです。最新医療が受けられる総合病院として名高いこのロイヤルフリー病院。2013年に、この病院の名を、更に世界にとどろかせるニュースが!

年間25000人が無料でアロマセラピーマッサージを受けるこの病院の補完療法チームに、チャールズ皇太子より大英帝国勲章MBEが授与されたのです。これは、世界中のセラピストに勇気と希望と感動を与える、大事件ですよね!

 

ロイヤルフリー病院補完療チームリーダーのキース・ハントさんが、今回もトレードマークのオレンジのTシャツ(ピンクの時も)と満面の笑顔で迎えてくださいました!

以前キースさんにお会いした時、「イギリスには、セラピーが受けられる病院がたくさんある中で、なぜロイヤルフリーが勲章を受賞したのでしょうか?」とお訊きしたところ、キースさんは「よく分からないけど・・・」と前置きしたうえで、こう仰いました。

「ロイヤルフリーホスピタルは、全ての病棟において、いかなる状態の患者さんにもアロマセラピーマッサージを施している(もちろん、医師の許可のある場合に限るが、医師が許可を出さないことはほとんど無い)。

他の病院は、癌の方だったり、妊婦さんだったり、特定の方に補完療法を行うことが多い。ここでは、全ての病棟にセラピストが常駐していて、病院全体でアロママッサージがなくてはならない存在になっている。それが理由なんじゃないかな?」

 

セラピストの役割と禁忌の考え方

例えば、集中治療室では、心拍数が高すぎてすぐに手術ができない患者さんに対して、セラピストはアロママッサージによって患者さんの心拍数を落ち着かせ、スムーズに手術ができる状態にするのが役目なのだそうです。他にも、西洋医学的には対処法がないAWS(腋窩リンパ管線維化症候群)や、身体に触れられないほどの深刻な状態にある方(このような方へは顔に触れることが多い)へのケアなど、医療現場の重要なシーンで、セラピストが役割を果たしているのだそうです。

一般的には、「感染症にはセラピーは禁忌」と言われていますが、それはセラピストに移るのを心配していわれていることです。 ここではグローブやマスク、時には防護服を着用し、安全に注意した上でアロママッサージが行われています。おそらく、エボラ出血熱の患者さんにもアロママッサージが行われた、唯一の病院でしょう。

ここでは「●●だからアロママッサージができない」と考えるのではなく「こう工夫すればアロママッサージができる」と常に考えられています。ロイヤルフリーホスピタルの勲章受章は、まさにキースさんが長年の経験のなかで培ってきた技術と応用力、そして医療チームや患者さんとのコミュニケーションから得られた絶大な信頼が、総合的に評価された結果なのですね!

アロママッサージのシステム

病院の中を歩いていると、「ハーイ! 元気?」「休暇はどうだった?」「そのシャツ素敵ね~」など、誰もがカジュアルに声を掛け合っています。キースさんと一緒に歩いているだけで、たくさんの方に「キースのマッサージは最高よ!」と声をかけられました。

いったい誰が患者さんで、誰がスタッフなのかわからないくらい、明るい雰囲気です。「ご自由にどうぞ」というコーヒーやお菓子のコーナーがあり、点滴を受けながら、リラックスしてお菓子を頬張り、お喋りしている患者さん達も多く見られます。

さて、アロママッサージのシステムについてご紹介します。まず、その日にセラピーを受ける患者さんが、医師や看護師によって決められ、下記の情報が記載されたMassage Referral Formがセラピストに届けられます。

そして病状によって「週5回マッサージを行う」「週1回、6週間マッサージを行う」など、施術の頻度や回数が決められるのだそうです。

 

<Massage Referral Formの内容>

  • 病棟
  • 氏名
  • 主治医
  • 病気の種類
  • 放射線治療を受けているか?
    ⇒ Yesであれば、その部位も詳しく記載。例えば左胸に放射線を受けていたら、左側の背部もマッサージはしない(右胸や左腰はOK)
  • 隔離されている患者か?
    ⇒ Yesであれば、グローブやエプロンを装着しての施術となる。
  • その他の情報、コミュニケーション手段(意思疎通ができない場合)、触れてはいけない部位など
  • メディカルチームからの許可の有無
 

Formの内容を受けて、セラピストが患者さんの病棟を訪ねます。
その時持参するバッグの中身はこちらです。

  • 消毒スプレー
  • アロマブレンドオイル(オーガニックのもので、1%濃度にブレンドされたもの)
  • ココナッツのクリーム(オイルが苦手な方用)
  • 書類の束
 

この書類には、言葉を聞いたり、話したりすることが出来ない方のために、指さしで会話ができるための秘策も含まれます。

 

マッサージに来たけれども患者さんが(検査などで)いなかった場合、セラピストがベッドに残すメッセージまで用意されています。スゴイ! まるで、機内食のサービスみたいですネ。

施術後は、申し送りシートに、患者名、病棟、施術部位、病名、コメント、施術担当者のイニシャルを記載して、記録を残します。

施術メニューは「アロマセラピーマッサージ」の1種類のみで、部位は患者さんの希望や体調によって、様々。15分~20分の、ソフトなマッサージです。

 

癌の方にソフトなマッサージが必要な理由

以前訪問した時に、キースさんに、「ソフトといって、解釈はそれぞれだと思うのですが・・・」と質問したところ、「癌、白血病、骨髄移植の患者さんには最もソフトに、MS(多発性硬化症)の方は感覚を感じにくいので、少しだけ圧をいれる」と、長年の経験で培った独自のアロママッサージを伝授してくださいました。

ちなみに、癌の方に最もソフトに行う理由は、マッサージが癌の転移を促すと考えられているからではなく、健康な血球成分が低下しているためアザができやすいからなのだそうです。「マッサージが癌の転移を促すとは考えられない。マッサージが癌の転移を促すと言うなら、入浴後バスタオルで身体を拭くことも、転移を促してしまうではないか!」というのがこちらの病院の見解だそうです。

クレーム・事故は一件も無し! その理由とは・・・?

個室だけではなく大部屋でもアロマセラピーマッサージは行われますが、「香りが苦手な方からのクレームはないのですか?」と訊くと、キースさんの答えは、「良い香りが病室に漂うのは、良いことじゃないか!“私もやりたい!”と希望する方ばかりで、クレームなんてある訳ないよ!」ということでした。

アロマセラピーマッサージを導入して以来、クレームや事故は1件たりとも起きていないのだそうです。99人の患者さんが満足しても、1人の患者さんに事故を起こしてしまっては、全てが台無しになってしまいます。患者さんや病院からの信頼を裏切らないように、徹底的に注意を払っているのだそうです。例えば、ドクターから依頼された部位と違う部位をやって欲しいと患者さんから頼まれた場合、セラピストは単独で判断せず、必ず医師に確認するようにします。

こうして、チーム全員がルールを厳守し、同じ対応をすることで、事故が1件も起きていないという結果に繋がっているのです。
これも、キースさんによる長年の努力と工夫の賜物ですよね。

病棟でのアロママッサージの様子

キースさんとベテランセラピストのロザリーさんに案内していただき、病棟へ。難しい病気の患者さん、話すことができない患者さん、高齢の患者さんなど、様々な患者さんがアロマセラピーマッサージを受けていらっしゃいました。「肩と腰が痛いから、マッサージして〜」と駆け込んでくる医療スタッフも。

ここでのセラピストの役割は「アロママッサージをすること」ではありません。ある患者さんは、1日中ベッドサイドの椅子に座っているのですが、「この椅子では、肘が当たって痛いから嫌い」とアロママッサージを受けながら、ぼやいていました。すると、マッサージ終了後にセラピストが看護師に「肘をカバーするようなクッションをあげてね」と依頼していました。

 

別の患者さんは、話すことも動くこともできないのですが、まばたきを2回すると「Yes」という意味だそうで、それだけで他者とコミュニケーションをとっています。

セラピストが患者さんに触れた途端、いつもより筋肉がこわばっているのを感じ、「あなたは今日は調子が悪いのね?」と聞くと、2回まばたきをしました。

マッサージ終了後、セラピストが看護師に「あの患者さんが具合が悪いようだから注意して見てあげてね」と伝えていました。

 

「セラピストの役割とは・・・、患者さんの心を明るく照らす太陽であること!」と、キースさんはおっしゃいます。今回の短い滞在中でも、セラピストのアロマセラピーマッサージにより、患者さんの心がみるみる開かれていくのをなんども目の当たりにし、本当に感動しました。ある患者さんは、アロママッサージが終わった後も、香りの残るタオルをずっと抱きしめて、ウットリしていました。

キース・ハントさんについて

キースさんは、16歳からロイヤルフリー病院のスポーツセンターで働き始め、約50年に渡って、この病院に勤めている大ベテラン。病院内で「キースを知らない人はいない」というほどの有名人です。スポーツセンターのマネージャーをしていた26歳の時に「患者さんのために何かできないか」と考え、クレア・マックスウェル・ハドソンスクールに入学。

たった一人でボランティア・マッサージを始めたのが、この病院の補完療法サービスの始まりだったそうです。現在は、病院スタッフとボランティアによって、年間25000人(つまり、1日約70人!)もの患者さんやその家族に、補完療法サービスを提供する大規模チームに発展しました。

キースさんは、なんと毎朝4時半に起きて、5時半から仕事をしているのだそうです。「5時半に職場に来て、一体何をしているのですか?」 と訊くと、病院では、朝7時15分から手術が行われるのですが、手術前の患者さん全員を訪ねて5分~10分のミニ・マッサージを施しているのだそうです。緊張している患者さんにマッサージをすることで、緊張が緩み、麻酔の効き目が全然違い、手術がスムーズに運ぶのだそうですよ。

私も、家族が手術をした時、直前までセラピーをし続けていたことがあります。病気を治すことはできなくても、手術直前のセラピーにそのような効果があるとは・・・!

キースさんのお話に、自分の体験を重ね合わせて、とても感動しました。同時に、「英国の医療現場で行われているアロマセラピーの状況を、もっと多くの方にお伝えしたい!」と思いました。

誰よりもハードスケジュールをこなしているキースさん。そんな日々の中でも、患者さんのお葬式にはできるだけ顔をだしているそうで、私が訪ねた日も、急に患者さんのお葬式にいくことになり、さっと黒いTシャツに着替えて(下はジャージーのまま)車で去って行きました。

キースさんは、約50年に渡って病院で働いている間、1度たりとも病気で仕事を休んだことがないのだそうです!

「その元気の秘訣は・・・?」とお聞きしたら、「食事制限も、運動も、何もしていないけれど・・・、好きな仕事をすること。何にでも興味を持つこと。そして、笑うこと!」だそうです。

とっても素敵なキースさん。温かいハートと情熱、明るさ、知性、行動力を兼ね揃えている、真のセラピストです!

 

おわりに

短い期間のロンドン滞在ではありましたが、ローズの咲き乱れるリージェンツ大学、そしてロンドンの病院のアロママッサージの現場訪問と、私のアロマセラピーの学びの原点に立ち返ることができました。

IMSIでアロマセラピーをお伝えし始めてから16年が過ぎました。
IMSIのアロマセラピークラスは、英国でIFPA認定を受け、研鑽を積んだアロマセラピストである講師が「本場英国で行われているアロマセラピー」を大切にお伝えしています。

それには、精油の知識だけでもない、マッサージの技術だけでもない、クライアントをホリスティックに見る視点や、植物を愛する心、セラピストの強く優しく柔軟な姿勢や精神なども含まれます。

これからも、授業の中では、カリキュラムに含まれていないことも含めて、英国の生の情報をタップリとお伝えしていきますので、ご興味のある方は是非話を聴きにきてくださいね!

 
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