NATURAL THERAPIES OVERSEAS

●英国 ロンドン 国際セミナー●
~病院とホスピスのためのアロマセラピー参加報告~
末光 早苗

2017年11月25日、英国、ロンドン ロイヤルマーズデン病院で開催された臨床アロマセラピーの国際セミナーである「病院とホスピスのための国際セミナー」に参加しました。

このセミナーでは病院やホスピスにて実施されているアロマセラピーを取り入れた治療やトリートメントに関して9名の講演者が発表しました。感染症、睡眠、癌、口、爪、小児ホスピス等それぞれ異なる分野でのアロマセラピー導入例を紹介しておりとても興味深いセミナーでした。

日本ではまだまだ発展途上である臨床アロマセラピーですが、イギリスを含めヨーロッパではこんなにもアロマセラピーが医療現場に浸透している!そして実際に結果も出ているなんて!と、とにかく目から鱗の1日でした。では9名の講演者をそれぞれ少しづつご紹介していきます。

  • 参加者へアロマスティックのプレゼント

  • 全席満席、受付には長い列が

  • 会場の様子

  • メディカルケアで活用されるグッズ展示と商品解説が聞けるエリア

講演①Valerie Edwards Jones さん

Valerie Edwards Jones さん

マンチェスター・メトロポリタン大学医学微生物学の名誉教授であるValerieさんの講演は薬剤耐性について。

薬剤耐性とはウィルスや病原体が薬に抵抗力を持つことで薬が効かなくなってしまうことであり、今日人や動物にもこの傾向が増えているそうです。

実際イギリスでは、病原体の抵抗力が高まったことにより20年前に比べて現在は利用できる抗生物質が減ってきているそう。従来の薬が使えなくなっている中、精油は生死に関わるレベルではない感染症の代替治療として効果が期待されています。

講演では抗生物質として特に取り上げられていた精油はティーツリー。その他にもイランイラン、コリアンダー、セージ、ペパーミント、マジョラム、オレガノ等も抗生物質として利用できると紹介していました。そしてValerieさんが強調していたのは精油は1種だけで使うより、数種を一緒に利用する方が効力が高まるということ。実際、精油を数種類ブレンドした方が高い抗生物質として効果が高まることが実験でも証明されています。

Valerieさんの講演より医療でのアロマセラピーの高い可能性を感じ、興奮してしまいました!

 

講演②Natalie Pattison さん

Natalie Pattison さん

ロイヤルマーズデン病院に勤務するNatalieさんはICU(集中治療室)の患者は睡眠不足に悩まされていることが多いということに着目しました。

事実、ICUでは治療や機材の設置等で多くのスタッフが出入りしており患者の睡眠不足が問題となっています。睡眠不足は治癒を妨げ、患者をせん妄状態に陥らせることもあります。

この問題を緩和するためにNatalieさんのチームはセラピストによる手/足/背中のいずれか20分間のマッサージ(箇所は患者と希望と症状によって選択)を取り入れたところ、より良い睡眠を得られたいう患者の反応が見られました。

また、2種類のブレンド(①ベルガモット、サンダルウッド ②マンダリン、フランキンセンス、ラベンダー*Lavandula augustifolia)のいずれかをパッチに垂らし、患者の胸の真ん中に一晩パッチを貼ることで睡眠の質が改善されたという実験結果も得られたと発表していました。

 

講演③Jacqui Stringerさん

Jacqui Stringer さん

ガン治療で有名なマンチェスターThe Christieに勤務するJacquiさんは1997年より移植手術にてアロマセラピーの導入を開始し、現在でも医療現場において更なるアロマセラピーの活用を進めています。

講演ではその活用例をたくさん紹介してくれました。
例えばある乳がん患者は菌を含んだ悪性の傷がありました。傷からは悪臭が強く、滲出液が大量に出ており1日に4−5回傷当ての交換が必要でした。特に悪臭が深刻で、患者は他の患者達とは別の個室に移されほどでした。

この患者に精油3%を混ぜたクリームを傷口に塗り、炭を使った傷あてを2枚目の傷当てとして使用しました。4日後、悪臭はなくなり傷口からの滲出液も改善し、以前は毎日5回取り替えていた傷当ては2日に1度と大幅に減少しました。そして他の患者と隔離されていたこの患者は、大部屋に戻ることができたそうです。

 

講演④Madeleine Kerkhof さん

Madeleine Kerkhof さん

オランダから来たMadeleineさんは口内ケアに関して講演されました。

緩和ケアをしている末期の患者の大多数が口の問題に悩まされており、例えば進行ガン患者の約8割はドライマウス、ホスピス患者の約4割以上が口臭に悩まされていると言われています。これは放射線治療などのガン治療の影響も関与しています。

口は食事等コミュニケーションには欠かせないパーツであり、口の問題から鬱になってしまう患者もいるそう。口の病気は人生の質を低下させるのです。Madeleineさんはジェルに精油を混ぜて口に塗ることで症状の改善が見られたと紹介していました。

Madeleineさんおすすめの精油はペパーミント、マヌカ(特にお気に入りのよう)、ヘリクリサム、シーバックソーン、カレンデュラ、カモミールジャーマン です。ある昏睡状態のホスピス患者にアロエベラ、シーバックソーン、スペアミント、ペパーミント、カモミールジャーマン、ヘルクリサムを混ぜたジェルを1日6回口に塗ったところ口の中の赤みが1日で引き、粘膜に潤いが戻ったという結果も出ています。

 

講演⑤Wendy Belcour さん

Wendy Belcour さん

Wendyさんが持ってきてくれたタルク精油

フランス トルーズから来たWendyさんは薬に頼らない痛み緩和と安らぎのためにNursing Touchという中国医学経路をベースとした禁忌のない軽いタッチのマッサージを作り出しました。

このマッサージの特徴は皮膚受容器という部分にだけ刺激を与えるもので、同じ手順を、同じ回数、同じリズムで実施します。痛みは、痛いという信号が脊髄を通って脳に伝わることで私たちに痛いという感覚を届けます。

軽いタッチのマッサージはこの痛みの信号を抑止するメルケル細胞を刺激し、痛み緩和作用ももたらします。私がこれはおもしろい!と感じたのはWendyさんはキャリアオイルの代わりにタルクという滑石を利用していることです。

タルクは発ガン性がある等悪い噂も多いですがWendyさんはこのような悪い噂を真に受けないでほしいと語っていました。Wendyさんがタルクを選んだ理由はキャリアオイルは溢れると床が滑りやすく危ない点、タルクは精油の香り保つ点、そして滑らかな肌触りからです。

タルクブレンドの作り方は簡単!①精油をブレンドする(精油は0.5-1%に)②少しづつタルクに精油を混ぜる③塊を取るためにふるいにかける④ガラスの密封容器に保管、以上!半年ほど保存が効くそうです。実際にWendyさんのタルクブレンドを試しました。すべすべでとてもいい触り心地、香りもほんのり優しく漂い気持ちい!実際会場でも大好評でした。

 

講演⑥Felicity Warner さん

Felicity Warner さん

Felicityさんは死を待つ患者へホリスティック、スピリチュアルな緩和ケアを提供するSoul Midwivesの創始者。

彼女の講演の中で印象深かったのは患者へのマッサージの仕方。
手順は①10mlのRapeseed oil(菜種油)に10滴の精油を入れる②オイルを患者に直接つけるのではなく、セラピストたちがオイルを手に取り患者のオーラを撫でる、または手を握ることにより患者にオイルを届けるのです!

非常に神秘的なFelicityさんの講演、日本人参加者含め惹きつけられている人が多い印象を会場より受けました。

 

講演⑦Robert Thomas さん

Robert Thomas さん

癌専門医のRobertさんはタキサン系の抗がん剤を使用している患者の約5割は爪のダメージを受けていると言います。

Robertさんは患者へウィンターグリーン、ラベンダー*Lavandula officinalis、ユーカリプタス等精油を混ぜたクリームを爪に塗ってみたところ爪の状態に大きく改善が見られたそうです。

化学治療による爪甲離床症(爪が爪床から剥がれていき爪の白い部分が増えること)も減少したとのこと!

 

講演⑧Abigail Tong さん

Abigail Tong さん

Abigailさんは子どもの患者とその家族に緩和ケアを提供しているホスピスでセラピストとして働いています。

アロマセラピーをトリートメントに取り入れており、マッサージでの利用はもちろんのこと(子どもたちにはシトラス系の香りが人気だそうです)、各部屋に1づつディフューザーを設置しているとのこと。(ディフューザーは寄付だそうです)

Abigailさんの講演の中で特に印象に残った話は、ある両親の話です。
子どもが亡くなった両親がAbiさんに子どもがトリートメントで使っていたクリーム(精油入り)を作って欲しいと頼んできました。そのクリームの匂いを嗅ぐと子どもを近くに感じることができるそうなのです。

Abigailさんはもちろん承諾しました。そしてクリームの代わりにディフューザー用のオイルをブレンドしご両親に渡したそう。クリームよりもオイルの方がディフューザーで部屋中を子どもの香りでいっぱいにできるためと、お父さんがとてもイカツイ方だったのでいい香りのクリームをつけているところが想像に苦しんだからだそうです笑。

Abigailさんの講演より精油がもたらす心のケアの効果を知ることができ、さらにアロマセラピーへの興味が深まりました。

 

講演⑨Rhiannon Lewisさん

Rhiannon Lewisさん

知る人ぞ知る、医療アロマセラピー業界でとても有名なRhiannonさん。毎年来日されており日本でも知っている人は多いかもしれません。

今回の講演にてRhiannonさんは、医療においてアロマセラピーが普及していくにつれて、インターネット等を通じてのアロマセラピーに関する誤った情報が患者に広まっていることに警鐘を鳴らしていました。

例えば、 Googleでアロマセラピーとガン治療について検索するとたくさんの情報が出てきます。中には「自然療法を取り入れていれば化学療法や放射線治療は必要ない」などのような危険な情報も。実際にRhiannonさんが会場にいる私たちに「今までに患者さんからガンにはどの精油を使ったらいいのか?と聞かれたことがある方手を挙げてください」と言った際、会場のいる約8割越の参加者が手を挙げていました。

残念ながら最後の講演で時間が押していたため用意されていた講演スライドをほとんどスキップしての駆け足講演となってしまったのですが、医療現場でアロマセラピーを用いて働くセラピストたちに向けて、自分が患者にできることのリミットを認識すること、書籍等信頼できる媒体から常にアロマセラピーとガン治療に関しての最新の情報を取り入れること、実際の現場にて学ぶ機会をどんどん取り入れること等先輩として後輩にアドバイスを送るように話をしてくれました。

 

セミナーを終えて、アロマセラピーは今後確実に医療の現場で更に普及していくであろうと感じたと同時に、アロマセラピーが患者にとってどのような助けとなれるのか、そしてどのようなケースは助けとはなれないのか、セラピストも患者も正しい知識を持って理解し合うことがとても大切だと思いました。万能薬とはいかないけれど、アロマセラピストとして医療の現場でもアロマセラピーが誰かの役にたてるという事実を知ることができ、非常に嬉しく感じました。日本でもこれからもっと普及していきますように!

講演終了後のQ&A

プロフィール

末光 早苗

IFPA認定アロマセラピスト
英ロンドン在住

植物の力を借りて人々を癒すことができるアロマセラピーが楽しくてしょうがない毎日を送っています。アロマセラピーに限らず様々なセラピーに興味があり貪欲に学んでいます。

 
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