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●英国ロイヤルフリーホスピタル「病院内でのホリスティックケア」
キース・ハント氏来日セミナー レポート ●
IMSI副学院長 嵯峨 慈子

「病気を患っている家族を癒したい」という方、
「医療現場でセラピーを導入したい、働きたい」と願うセラピストも多くいらっしゃいます。

病院で行われるアロマセラピーケアについて、その実際を私たち自身が学びに行くだけでなく、海外から先生をお呼びして、国内での普及に役立てたいという想いで活動をする中、ご縁をいただきました、年間34000人の入院患者さんにセラピーを提供するチームのリーダー、キース ハントさん。

今回の来日セミナーは国際プロフェッショナルアロマセラピスト連盟(IFPA:本部、英国)の国内認定校の運営の元、関西、東京、九州でセミナーが開催されました。

 

英国ロイヤルフリーホスピタルについて

英国王室の認可と保護を受け、設立された病院。英国で初めて女性の医学生を受け入れ、また、初めて女性の外科医を雇用した病院でもあり、現在も多くの女性が勤務。NHSによって無料で医療が提供されています。

 

キース ハントさん

25年にわたり、病院内にセラピーを提供しているセラピストリーダー。すべての病棟でセラピーを提供する仕組みをつくり、運営中。マッサージを提供する3分の1がガン患者で、その他、多発性硬化症や緩和ケアの患者も多い。もともとは院内で医療チームスタッフの心身の健康をと思いマッサージセラピーを学んだが、一人の医師に患者のケアを頼まれたことがきかっけでこのサービスを続けることに。この病院での勤務は50年間を超え、患者からだけでもなく、医療チームから最も信頼の厚いスタッフ。2013年にキースさん率いる補完療法チームはチャールズ皇太子より大英帝国勲章、MBEが授与されている。

 

【Treat not Treatment】その人丸ごと、家族丸ごと支える
~症例から学ぶ「マッサージケア」の本質〜

初日の午前中に行われた講演では、病院の中で実際に行われているマッサージケアについて、院内の仕組み、医療チームとのかかわり、実際に活動を行うセラピストの役割や責任、セラピストに求められる資質について、お話いただきました。

キースさんのお話は、病院の中でセラピーを行っている方々や、これから、そうしていきたとお考えの方々、病気を患われている方がご家族にいらして、何かしてあげられないかとお考えの方にも、実践的ですぐにでも活用できそうなことが多くありました。

キースさんが大切なこととして強調されたことや、セミナーの様子をレポートします。

 

「医療現場でセラピストとして働くために」

日本でもタッチの効果が高く評価されるようになってきましたが、実際に医療現場で仕事をするとは、どのようなことを知っておく必要があるのでしょうか?

最初に強調されたことは、

『「私たちの仕事は医療チームと協力すること、医療の代わりをすることではない」、セラピストして行ってはならないことは、「診断をしない」「治療、治癒を目的にしない」「医療チームの許可なしに強い圧を用いない」ということです』

・患者の病気に対してではなく、患者個人としてのニーズに合わせてアプローチを選ぶこと
・公平さを保ち、患者にすすめられている治療を思いとどまらせるような発言を決してしないこと
・専門家の助言や、協力を要請すること

これらも、前提になる基本的な考え方と、話されています。

 

「医療現場のマッサージは、院内でどんな効果をもたらしているのでしょうか」

キースさんは、毎朝5時に出勤します。手術前の患者さんの不安やストレスを軽減するために、温かい笑顔で患者さんを迎え、傍で「触れる」という時間を提供しています。

25年の院内活動のなか、医療現場での代表的なマッサージの効果は、このようなものだといいます。

・治療や看護を補完する
・静かで安心できるパーソナルな環境を提供する
・患者のQOLを高める

その他、
・疼痛や不快感の緩和
・免疫機能を穏やかに活性化する
・筋肉の緊張を和らげ、睡眠の質をよくする
・リラクセーションを促し、不安感をやわらげる

など、患者自身が自分の状況に耐えられる力を強めたり、患者だけでなく、患者の家族に元気を与え、コミュニケーションに変化をもたらし、前向きな気持ちになることをサポートするなど、心理的にも身体的にも、いくつものメリットがあるといいます。加えて、こんな話もしてくださいました。

「看護師の時間節約!?」

セラピストが1回15分のマッサージをすれば、看護師の手が1時間あくのだそうです。施術後の患者はたいてい満足しているか、眠りがよくなるため、不安が減り、ベルをならして看護師をよぶことが少なくなるのだといいます。

 

「セラピストが院内で施術するときのポイントは?」

まず、最初に思い出したいのは、施術するときには、病院の中であって、自分のサロンではないことを理解します。医師などから照会される「マッサージ指示書」をもとに、医療チームとの連携するためのプロトコールに従って行うこと、病室の入り口にある指示書を確認し、安全のために着衣や防護用品の使用指示にも従うことです。

「マッサージ指示書 Massage Referral Form」

ここには、担当医、指示する人の名前、患者の名前と年齢、病気のある分野、放射線治療の有無、感染について、マッサージ部位の指示などが示されている。

「マッサージをしてはいけない部位」は、セラピストは患者からリクエストがあっても、絶対に触れないし、許可のない患者への施術はしないこと。

また、緩和ケアなどをのぞき、血栓の疑いのある患者、悪性腫瘍や皮膚疾患、免疫低下、急性炎症期、呼吸が荒くなったり、息切れがあるときは、施術をしないのが基本です。

 

「セラピストチームが安心してマッサージを提供するために」

入院患者は絶望や不安、気分の落ち込みや心と体の調和が難しい状況が多いので、ケアにかかわるセラピストも、精神的にも肉体的にもエネルギーを消耗します。

健康で施術できる自信があるときのみ、病棟での施術ができるといい、キースさんのチームでは、セラピストの家族、近い友人、ペットも含めてロス「亡くなる」ことがあったときには、「今は、患者でなく、あなたが癒してもらう時間」として、そのセラピストは一定期間、施術を控えるというルールがあります。

また、セラピストのセルフケアは特に重要で「グランディングしていること」が欠かせません。ロイヤルフリー病院には、セラピストの他、医療スタッフがかかれるカウンセラー(スーパーバイザー)がいます。セラピストチームは、患者とのかかわりで生じるメンタル面の相談などしながら、日々の活動がよりよくなるようにしています。

他にも、注意点が多いのは事実ですが、キースさんは、心理的にも、身体的にも負担が大きい時期に共に過ごす人がいるというのは、患者にとって大きなことで、それをサポートする活動も言葉で表現できないような、価値を感じるといいます。

実際に何人かの患者さんの入院生活について話してくださいました。若くしてお子さまたちと奥様を残して、人生最後の闘病生活を過ごされた男性、難病から2度の肝臓移植手術を経てパラリンピックの英国代表になった女性のお話、命に係わるような重度の拒食症など、マッサージ「タッチ」、そしてセラピストチームとの出会いによって、その人の表情、行動がどのように変わっていったかなど伝えてくれました。

 

「セラピストの傾聴スキルについて」

セラピストはカウンセラーではないことを肝に銘じることが必要なのだそうです。話をきいて、その話から患者の状態がよくなるように会話を使うのはカウンセラーの仕事です。セラピストの役割ではありません。マッサージ時間中に患者が話すときには、耳を傾け、患者に、こころ赴くままに話してもらいます。その中で、患者の心配事がカウンセラーと話すべきだと感じることもあるでしょう。または、担当の看護師や医師と話すべきだと感じることがあるでしょう。

キースさんも今までに「この手術をした方がいいか?」とか「自分はいつまで生きるのだろうか?」など、自分がなくなったときの家族のことを心配したり、昨日の看護師さんが無礼だったという不満なども患者から直接聞くことがあるといいます。

このようなことに対しても、セラピストは事前に研修をうけて、自分たちの役割と仕事を理解しています。しかし、役割があるからといって「そういう話は私に話してもダメ!」と一方的にきってしまうのではなく、患者の話を傾聴し、共感し、笑顔とタッチを大切に、元気をあたえていくことが仕事になります。また、患者からの情報をえり分けて、医療チームに申し送りもします。

キースさんの話しでは、看護師やカウンセラー資格を持つ人が「患者のためのマッサージサービス」に入るときには、自分はその資格があるからといって、患者に医療的なアドバイスをしたり、カウンセリングをしたりせず、自分の役割を確認してチームに参加してもらっていると言います。患者に公平にサービスを届けることはもちろん、この役割を出てしまうと、医療チームとの信頼関係が崩れてしまうからです。

 

「患者とセラピストの関係」

患者の関係は特別ですが、セラピストは境界を認識している必要があります。ケアしているのは病気ではなく、その人そのものであり、常にプロフェッショナルなアプローチに徹します。患者とのかかわりはエネルギーを消耗するので、自分自身のバリアを作ることも必要です。患者のためにあなたの人生、すべての時間をつかわないようすること。患者に同情して本当はNOと言いたいところをYESと言ってしまうことも、よくありません。

 

「マッサージの時間と方法」

患者一人に対して15分以内。状況によっては5分以内の指示の場合もあります。セラピストによって時間が異なると、この「補完療法チーム」仕組み存続が難しくなります。入院患者に公平に、加えてセラピスト間、ドクターとの信頼を構築する上でも大事にポイントになります。

キースさんへは他の病院からも、仕組みやプロトコールを知りたいとよく聞かれ、教えることもあるのだそう。ロイヤルフリーのような大病院では、運営面での仕事が多くなるが、小さな病院では、マネジメントがしやすいのだそうです。

病院内でのケアに大切なことの様々な説明の後、お話がそのままつながるように、実技の練習が開始されました。

 

「タッチの本質・実技トレーニングの様子」

セラピストに求められることは一番は笑顔「スマイル」。

最も大切な資質であり、スキルが「スマイル」。
触れるときには、「アイコンタクト」と「安心できる穏やかなタッチ」。

先に書いたように、医療現場では、たくさんの決まり事、ルールがあり、そこで働くすべてのプロフェッショナルとの信頼関係がなくては成り立ちませんが、そのうえで、最もダイレクトに、セラピストが貢献しているのが、「スマイル」・「アイコンタクト」・「安心できる穏やかなタッチ」なのだそうです。

脚のマッサージ、優しく包み込むタッチを目指します

グローブをつけて感染症や隔離患者へマッサージする場合

血栓予防のタイツをはいている患者の場合は、マッサージケアの前後でタイツの着脱を行う。この作業、本当に力がいります!

男性のプロフェッショナルも講座で熱心に学ばれます

ハンドマッサージは、手と手が触れ合う最も基本の術
愛情が感じられるように、アイコンタクトも忘れずに

腋下リンパ管線維化症候群(AWS)に対するワーク
しっかりしたタッチが必要になる

医療器具が全身にある患者で、顔や額ならマッサージできるときも。フェイシャルも非常に価値があり、よく行う施術なのです

座っていた方がラクな患者さんに対してセラピーを提供する練習をします

その他、乳がん手術後の患者に対しての触れ方、入院生活の影響で便秘になってしまった患者へのお腹のマッサージ、緩和ケアでの背中のマッサージ、など、様々な実践練習が紹介されました。

参加されているすべての方がキースさんの手のぬくもりを感じようと、練習をしながら、キースさんがまわってくるのを待ちます。タッチについて質問をしたり、個人的な質問をしたり、実践的なお話も。キースさんの手の温もりや笑顔で、会場いっぱいに暖かい空気感に包まれていました。

今回の講習では、する側だけでなく、受ける側の体験もたくさん行われ、自分が体験することで、他者に施術を行うときに「本当に大切にしたいこと」を経験的に学ぶことができました。

 

「セミナーの終わりに」

2日間の最後に、キースさんは病院でマッサージケアを提供することを、
「患者の人生にとって大事な時間を共有する人になることで、私たちは病気を治すわけではないけれど、患者の旅(闘病生活)をよいものにしていくお手伝いができる、この感動は、言葉では言い表せないほど。皆さんも、勇気をもって進んでください」
とご自身のご経験からでる言葉、そして私たちへのエールを伝えてくださいました。

 

全国から来てくださった皆さま。日頃、所属している団体や職場、活動対象は異なっていても、ポジティブに学ぶエネルギーや意見交換も活気に満ちあふていました。

今までに100人を超えるセラピストの皆様がキースさんから学ばれています。日本でも効果的で安全なホリスティックな「タッチケア」が届けられる日が近くなったのではないでしょうか?全国からご参加いただきました皆様、ありがとうございました。キースさんから学んだ、勇気も、心構えも、愛も、共に伝えていきましょう!

共感、タッチ、笑顔、アイコンタクト、チームワーク、これらは病院でのケアだけでなく、いろいろな場所で、いろいろな職業で、役立つことだと感じます。

キース先生、大きな愛と温かい心。そして、厳しさや強さも含めて、多くのことを教えて下さり感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございました!

 

「効果のあるセラピー」を学び実践するエネルギーに満ち溢れるIMSIスタッフで、キースさんを囲んで。

私たちも、学んだことを大切に、ますます精進していきたいと思います。 

 
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