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●TREAT NOT A TREATMENT!治療ではなくご褒美!●
~キース・ハント来日ワークショップ「病院の中のホリスティックケア」開催報告~
2019年(IMSI学院長 冨野玲子)

2019年6月、英国ロイヤルフリー病院で長年補完療法チームのリーダーを務めたキース・ハント先生が来日し、「病院の中のホリスティックケア」が開催されました。

全国各地より、病院の中でアロマセラピーを導入したいと希望するセラピストや医療従事者、介護士、セラピー勉強中の方、ご家族の看病中の方等、たくさんの方にご参加いただきました。

 

治療ではなく、ご褒美

講義の英語タイトル「Treat not the Treatment」を直訳すると「治療ではなく、ご褒美」。ロイヤルフリー病院は、最新設備を整えた大病院でありながら、アロマセラピーの「ご褒美」が付いているのが特徴です。そのご褒美の件数は、年間36000件!

件数の多さはもちろんのこと、「全て」の病棟にアロマセラピストが配置されているのも、この病院の特徴です。隔離病棟、集中治療室(ICU)など、通常はセラピストが入ってはいけないような病棟でも、アロマセラピーが行われています。隔離病棟では、エボラ出血熱の患者さんにも、アロマセラピーが行われました。「感染症には禁忌」「熱がある人には禁忌」と言われることもありますが、セラピストに知識と技術があり、しっかりと工夫して対策すれば、セラピーは行えるのです。そしてそれが、患者さんにどれ程の生きる希望と勇気を与えることにつながるでしょう。

化学療法、放射線療法や人工透析など、辛い治療を受けている患者さんにとって、アロマセラピーは、まさに「至福の時間」。勿論、がん患者さんや透析患者さんも、禁忌ではありません。それは、セラピストにノウハウがあるからで、「気をつける点」は徹底されています。

 

ロイヤルフリー病院でのアロマセラピーのはじまり

希望すれば毎日アロママッサージが受けられる、しかも経費は寄付金で賄われているので、無料! そんな夢のようなサービスですが、この活動は、26年前にキース先生がたった一人でボランティアで始めたのがきっかけでした。

もともと病院の職員だったキース先生は、医師の勧めによって1人のがん患者さんにマッサージを施した時、「この仕事にフォール・イン・ラブ!」つまり「恋に落ちた」のだそうです。それ以来、変わらぬ情熱を持ちながら、この仕事を続けてきたというキース先生。

因みに、キース先生はロイヤルフリー病院に勤めて52年間、1日たりとも病欠したことがないそうで、その理由の一つが「好きな仕事をしているから」だそうです。

セラピストとして・・・、というか仕事人としての、キース先生の生き様を見せていただき、とても感動しました。

 

病院とセラピストのルール作り

病院の中でアロマセラピーを浸透させるには、医療スタッフとの信頼関係がとても大切です。これは、キース先生が26年間、最も大切にしてきたこと。セラピーによる事故は一切なし! それには、セラピストが徹底して守っているルールがあるのです。

例えば、「医療スタッフに許可をもらった部位しか施術しない」「他の部位を依頼されたら、必ず医療スタッフに確認する」「どんなにせがまれても、時間を延長しない(笑顔でSee you tomorrow!と言う)」「患者さんの体位や機器を勝手に動かさない」など。

講義では、ロイヤルフリーで使用されている医療スタッフからのアロマセラピーの指示書など、貴重な書類もシェアしてくださいました。病院の中でアロマセラピーを取り入れたい方必見のワークショップでしたが、生まれから人生を終えるその日まで・・・、人のケアに関わる全ての方に聴いて頂きたい、本当に素晴らしい内容が詰まっていました。

 

セラピストの役割は「患者さんの旅を明るくすること!」

セラピスト自身が「治療」をすることはありませんし、治療についての助言をすることもありません。笑顔やと傾聴、そしてタッチングを通して患者さんに寄り添い、患者さんの「旅」を少しでも明るく、楽しいものにすることこそが、セラピストに与えられた役割なのです。

ロイヤルフリー病院では、セラピストは白衣ではなく明るい色のシャツを着ています。キース先生のお気に入りのユニフォームは、ピンク!他にも、黄色やオレンジなどのシャツをよく着ているのだそうです。

 

アロマセラピー以外にも、セラピストが使う手法があります。「注意転法」と呼ばれる、注射針の恐怖症の方に使われる方法です。まず、セラピストが患者さんの手を取り、「好きな場所は?」という質問を投げかけます。家の近くの公園だったり、家族で行った旅先だったり、お婆ちゃんの家だったり、答えはそれぞれですが、「そこにはどんな花が咲いているの?」「鳥は鳴いているの?」「その水は、揺らいでいる?」など、その場所についてイメージを膨らませられるような質問をどんどん投げかけていきます。

セラピストの問いに誘導されて、患者さんは、まるでその場所にいるかのよう。2人とも笑顔になり、益々話が弾みます。すると・・・「あら不思議! もう注射が終わってる!」。患者さんは、注射針がいつ刺さったのか気づかない程、お喋りに夢中になっていたのです。こんな風に、看護師と「阿吽の呼吸」で患者さんをサポートしているのです。

 

病院での精油使用のガイドライン

イギリスでのがん患者への精油使用のガイドラインは1%濃度であり、ロイヤルフリー病院ではそのガイドラインに従い、全ての患者さんに1%濃度のアロマオイルを使用しています。

Tranquility静寂(真正ラベンダー、シダーウッド、ゼラニウム)と、 Baby&Toddler乳幼児(真正ラベンダー、ローマンカモミール、マンダリン)の2種のブレンドアロマオイルがあり、セラピストが選んで使用しています。

もちろん、患者さんが望んだ時や状況に応じてドライハンドでも行うし、患者さんの私物のオイルをお借りして施術を行うこともあるのだそうです。新生児は、アロマよりもお母さんのにおいのほうが重要なので、アロマは使用しません。

 

ロイヤルフリー病院でのアロマセラピーマッサージの技術

アロマセラピストは、「治療」に直接関わる訳ではありませんが、アロマセラピーマッサージがあるのとないのとでは、患者さんの回復力が断然変わってくるのだそうです。病院では「●●だから、アロマができない」ではなく、「こうすればできる」ということを、工夫して見つけて行きます。

例えば、ICU(集中治療室)では掌や顔が、比較的触れやすい部位。圧はかけずに、ゆったりとしたペースで、優しいストロークを行っていきます。この技術で、異常に高かった心拍や血圧がスゥ~っと落ち着くことも多いのだそうです。モニターに映し出された数値を見て、医療スタッフだけでなく、患者さん自身も安心することができます。

 

肝生検を受けた患者は、24時間横向きの姿勢でいなければなりません。とても辛いことですが、苦痛の緩和にセラピストのタッチが役立つため、セラピストは横向きの姿勢の患者さんへのストロークも学ばなくてはなりません。

腹部の手術後すぐなど、横になることができない場合は、座位の状態で、優しく、ゆったりと撫でていきます。

 

感染症のある方には、医療用のグローブを着用して行います。難しくはありませんが、オイルの量など、少々コツが必要です。

患者さんが血栓防止のために弾性ストッキングを履いていることがありますが、セラピストが脚のアロママッサージをする場合は、このストッキングを脱がせ、施術後はまた履かせてあげる必要があります。アロママッサージのために、わざわざ看護師の手を煩わせないように、きちんと元の状態に戻す必要があります。

 

うつ伏せで行う背中のワークでは、患者さんの表情を読み取ることができないため、呼吸に細心の注意を払いながら、優しいストロークを行います。

便秘でお困りの患者さんに対して、医師から腹部のアロママッサージを依頼されることも。この時は、しっかりと圧をかけて、結腸に沿ったアイラブユー・ストローク(下降結腸のほうから流していくストローク)を行っていきます。シンプルですが、なんとも気持ちの良い、癒しのテクニックです。

お腹のワークでは、途中で感情が沸き起こって泣き出す患者さんも多いそうです。特に女性は、お腹に感情を秘めていることもあります。そんなときも、セラピストが手を握って、静まるまでそっと寄り添います。

 

参加者は、既にセラピストの方や、セラピー学習中の方が多く、実技の経験者が多くいらっしゃいましたが、病院の中のアロママッサージを想定しているため、キース先生から「もっとゆっくり!」と指摘されている方がたくさんいました。病院の中だけでなく、介護や訪問セラピーなど、様々なシーンで活用できそうなテクニックが、時間の限り伝授されました。

 


皆様、2日間のワークショップ、ご参加ありがとうございました!ロイヤルフリー病院職員として52年間、そして病院で働くセラピストとして26年間、キース先生が一から工夫して築き上げてきた、たくさんの大切なことをギュギュ~ッと学ばせていただきました。

この2日間は、セラピスト活動はもちろんのこと、どう生きて、どう人生を終えるか?といった根源的なことまで考えさせられる、深い内容でした。そして、ワークショップ終了後には、誰もがすがすがしい最高の笑顔に!!活動の道はそれぞれですが、皆さんのセラピスト人生において、キース先生から教わったことを、大切に活かしていきましょう!

 
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