SEMINARS & EVENTS

●嗅覚をより良いコミュニケーションに役立てる●
~発達障がい、自閉症、ADD/ADHDとアロマセラピー開催報告~
2021年(IMSI学院長 冨野玲子)

2021年2月、オランダ人心理学者でクリニカルアロマセラピストのジョナサン・ベナビデス先生によるオンラインセミナー「発達障がい、自閉症、ADD/ADHDとアロマセラピー」が開催されました。

ジョナサン先生は、オランダのライデン大学精神科小児センターで発達障がい、自閉症、コミュニケーション障がいを持つ方へのケアに携わる中で、五感を活用する療法が有効だと気付き、アロマセラピーを従来のケアと組み合わせて活用しています。

30年以上に渡るジョナサン先生の豊富な経験を聞くために、国内外から約80名のアロマセラピスト、子育て中の方、教師、医療関係者、臨床心理士や公認心理師、療育に関わる方(放課後デイサービス、児童発達支援、療育センター勤務)などが参加されました。

 

自閉症とアロマセラピー

自閉症とADHDを併せ持っている方も少なくありませんが、そもそもは別の問題ですので、別々のアプローチ方法を用います。自閉症を持つ方へのケアには、ジョナサン先生は「リコネクティング(再び繋がる)」という独自のメソッドを使っています。嗅覚が記憶と深い関係があるということは周知の事実ですが、自閉症を持つ方に対してアロマセラピーを使うことは、「家族と心が繋がっていた頃(=まだ自閉症を発症していなかった赤ちゃん時代)」の記憶を呼び覚ますことにもつながるのです。

リコネクティングの具体的な手法としてはノンタッチケア(触れないケア)とタッチケア(触れるケア)があります。ノンタッチケアでは、シンプルに精油を吸入するというケアであり、精油をブレンディングしてディフューザーで焚いたり、アロマオイルを作成したりします。朝用、昼用、夜用、そして緊急時用と、複数のブレンディングの種類があると、便利です。

精油の種類は、オレンジ、マンダリン、ベルガモットなど柑橘系が好まれることが多いですが、重要なのは、精油選びには必ず本人が参加し、本人の希望を尊重することです。そのため、あまり多くの精油を用意する必要はなく、6種類ほどの精油の中から、本人が嗅ぎながら好みの香りを選択して、2、3種類のシンプルな精油をブレンドしてアロマオイル作成します。

希釈する基材はキャリアオイルを使っても良いのですが、赤ちゃんの頃に使っていたベビー用スキンケア品(皮膚クリームなど)に希釈しても構いません。精油の香りだけではなく、ベビー用スキンケア用品の香りが、まだ自閉症を発症していなかった赤ちゃん時代を思い出させるきかっけになることもあるのです。

タッチケアの1つとして、「I Love You」という親子で行う手法が紹介されました。嗅覚に加えて、コミュニケーションの媒体として皮膚を使う方法です。音に敏感な子どもにも好まれます。手法としては、以下の通りです。

 

【I Love You】

  1. 親が子の足にそっと触れる
  2. フレンドされたアロマオイルを足に付けて「I Love You」または親が感じていることや願いごとを指で皮膚に書く。
  3. 子どもが足に触れられることが気に入っていれば、背中や他の部位でも行う。高ぶった気持ちを落ち着かせたければ、背中を上から下にストローク、沈んだ気持ちを高揚させたければ、背中を下から上にストロークするのも良い。

この手法を使うと、子どもが親の愛を感じることにより、安心感が得られるようです。それまで喋らなかった子どもが、急に「これは好きかもしれない」「これをするとハッピーになる」とポジティブな言葉を発し、親が涙するということもよく起こるそうです。

 

ADD(注意欠陥障害)/ADHD(注意欠如・多動性障害)とアロマセラピー

ADD/ ADHDを持つ方へのケアとしては、「リフォーカシング(再び集中する)」という独自のメソッドを使います。アロマセラピーが持つ「リラックス」「活性」そして「バランス」を促す作用は、発達障がいを持つ方には大変有効で、子どもも大人も、どの年代の人にも使うことが可能です。また、発達障がいに限らず、多くの方の睡眠や学習の問題、ストレス対処、社会生活やコミュニケーションにおける様々な問題の改善に役立ちます。

「リフォーカシング(再び集中する)」の手法の中で、大変興味深かったのが、「嗅覚トレーニング」のお話でした。発達障がいを持つ方は、嗅覚が歪んでいることが多いそうです。精油の香りを嗅ぐトレーニングをすることで、脳が香りを認識し始め、嗅覚を取り戻すだけではなく、集中力や落ち着きを取り戻すサポートになるのだそうです。 「嗅ぎ方」にも、脳を刺激する様々な工夫があります。

1つ目は「バーティカル(縦)に嗅ぐ」という方法で、ボトルやインヘーラーを鼻の真下に持ち、深く吸い込みます。2つ目は「ホリゾンタル(横)に嗅ぐ」という方法で、鼻の下に持ったボトルやインヘーラーを左右にゆっくりと揺らします。こうすることで、脳が香りを認知いる瞬間と、脳が香りを認知していない瞬間が交互に訪れます。3つ目は、「サーキュレイト(回して)に嗅ぐ」という方法で、ボトルやインヘーラーを片方の鼻孔の下に持ち、精油を吸入した後、ゆっくりと回してもう片方の鼻孔の下に持ち、精油を吸入します。こうすることで、右脳と左脳を交互に活用することになり、統合につながるのだそうです。

勉強や試験対策がうまくいかない場合には、教科ごとの香りを決め(歴史にはサイプレスなど)、その学習の時に精油を嗅ぐのがお勧めです。学校の授業や試験の日にアロマインヘーラーを持参して嗅ぐことで、気持ちを落ち着かせ、集中力を高めることにもつながります。

タッチケアの1つとして、気分と感情のバランスを取るための、シンプルなロールオンを使った前腕のマッサージを学びました。ロールオンで前腕に少量のアロマオイルを塗布し、片腕は肘から手首の方向に向かって撫で、もう片腕は手首から肘の方向に向かって撫でます。最後に、両方の前腕をこすり合わせながら、香りを深く吸入します。これは、自分でも、家族間でも、短時間で行うことのできる効果的なタッチケアです。

インヘーラーとロールオン

ジョナサン先生は、香りを嗅ぐ手段として、インヘーラーとロールオンを活用しています。これは、ヨーロッパの医療機関やスポーツ現場などで幅広く活用されている携帯用のアロマセラピー容器です。空気中に精油を拡散するディフューザーやスプレーとは違い、周囲の人に香りが届かないよう、パーソナルに香りを嗅ぐことが可能です。

また、安全性が高いため、どちらも子どもやアロマセラピー初心者のケアには最適と言われています。

 

【インヘーラーの使い方】

  1. 付属のスティックに精油を数滴たらします。
  2. スティックを中筒に差し込み、中筒の蓋を閉めます。
  3. 外側のカバーを付けて、完成です。

香りをかぐときに、外側のカバーを外して、中筒を鼻孔に近づけます。中筒の蓋は一度閉めたら開かないため、精油が皮膚に付いたり、使う人が精油を舐めてしまったりするリスクがありません。そのため、子どものケアにも最適です。

 

【ロールオンの使い方】

  1. 皮膚に塗布しても安全な濃度のアロマオイルを作成します。
  2. アロマオイルを容器に入れ、ローラー(ボール)の付いた中蓋を閉めます。
  3. 外蓋を閉めて、完成です。

使用する際は、外蓋を外して、ローラー(ボール)を皮膚の上で転がします。ボールとボトルの隙間から少量のアロマオイルが出てきます。ボールが触れたところにしかオイルが付かないため、オイルを付け過ぎるリスクがありません。

 

おわりに

今回のセミナーでは、ジョナサン先生の30年渡る経験の中から、シンプルで、安全性が高く、実践的なアロマセラピーのケア方法をたっぷりとお聞きすることができました。アロマセラピーを、発達障がい、自閉症、ADD/ADHDを持つ方やご家族のサポートに活用していくという可能性が大いに広がった、有意義なセミナーでした。

ジョナサン先生は、現在、アロマセラピーをコミュニケーション障がいのほか、痛みのマネジメント、終末期医療の分野でも活用しています。「この3つの分野は、かけ離れているものではなく、共通点があります。それは孤独であるということです。私は孤独を癒す専門家です。」とジョナサン先生が述べていたのが印象的でした。

今回のセミナーには、80名以上の方が参加したことから、発達障がい、自閉症、ADD/ADHDという分野は、日本で注目され、アロマセラピーのニーズが高まっている分野だということが伺えました。今後も、海外での事例を紹介することで、必要な人の手にアロマセラピーを届けることができるよう、活動していきたいと思います。

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